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想いでと記憶→sideT
「タダイマ……」
帰ってリビングに入ると、すでに飯の支度はしてあって、誠士は俺のダンベルを使って筋トレをしている
「おかえり。って、東流、暴れた?」
「ちと、絡まれた」
早速、俺の様子を見て異変を感じ取った誠士か突っ込んでくる。
さすがに暴れたあとに教習は、かなり疲れたな。
「東高か?…………だよな、その顔は」
「んな人数いなかったし。問題ねーや、まあ、天使にも会えたしよ」
ドサッと荷物を置いて康史の方に近寄る。
「ちょっと殴られた?…………頬に擦り傷がある」
「なあなあ、シロのこと覚えてる?小学校の時のダチだった」
1年だけの記憶がないだけなら、康史も忘れてはいないはずだ。
「ああ、なるほど。だから天使ね。久しぶりだね、あいかわらず天使のように綺麗で、可愛いかった?」
康史は唐揚げを俺の目の前に差し出すので、ぱくりとくわえる。
「あー、残念ながら、かなりでかくなってた。俺よりちょい背も高かったぜ」
「そんなにでかくなったんだ。イジメにあってないようなら、よかった」
康史も、懐かしそうに笑う。
「なんの話だ?」
誠士は別の小学校だったから、士龍のことは知らないだろう。中学校は、士龍は引っ越して別のところにいってしまったのだ。
「東高だったんだ。俺の小学校のダチ。今日潰したとこのヤツを迎えにきた」
「え!!」
康史と誠士は2人同時に声をあげた。
「なんで!?シロ?!あいつ、普段はかなりのぬけさくだけど、スゲー頭はいいんだぞ。小学生で高校の問題解けたくらいだぞ。なんか、ドイツには飛び級があって、かなり先の勉強してたって」
「そりゃ、いくら中学校サボりまくったとしても、東高はないよな……。なにやらかしたんだろ」
やっぱり、俺が東高にいくと考えたのだろうか。引越しの時に寂しそうな顔をしていたのを思い出す。
「で、今日はドコのやつを潰したの?」
誠士は、士龍の話はついていけないようで、ひたすら今日の相手を気にしているようだ。
「わかんない。…………ボスは赤い髪の毛のヤツでタケちゃん。って呼ばれてた」
かわいーネーミングだったが、身長は高い方だし、結構拳は重くていい動きはしていた。
「タケちゃんなー。あー、富田派の富田たけお、かな。赤い猛獣」
「その子をシロが、お迎えにきたんだ」
俺がいうと、康史はぷっと笑ってふーと息をつく。
「トールが言うとなんか、喧嘩に聞こえないや」
誠士の言葉になんだか少しほっとした。
飯を食い終わり誠士が家に帰ると、片付けを終えた康史は、ちょっと天井を見上げたあとに、何かを決意したように俺の目の前に座る。
なんだか思い余ったような、少し切羽詰った表情を浮かべて俺の顔をじっと見返す。
なんだろう、あの時のこととかを知りたがっていたというのは誠士から報告を受けた。
どうにかして、隠さないとならない。
「トールさ、オマエ、いままで俺を…………抱いたことってないのか?」
何を聞くかと思えば。
俺はふっと問いかけの内容に、肩の力を抜いた。
その時の俺は、康史の問いの本当の意味をわからずにいた。
だから、素直に答えた。
「抱いたことは…………ねーよ?でもよ、ヤスが俺に抱いてほしいってなら、俺はいつでも抱くぞ」
今までにはないし、多分、これからもないかもしれないと思っていたが、実は康史は俺には抱かれたいと思っていたのだろうか?
「そうか…………わかった」
康史は、何かを堪えるようにぐっと拳を握り締めている。
ふるふると全身を震わせているようにも見える。
俺は何か、マズったのか。
どこか、俺の言葉のどこに地雷があったのか。
まったくわからず、俺は康史の腕を握りしめた。
「どうした?」
「俺は、なんで記憶がなくなった?」
康史は、俺に縋るような表情を浮かべて、俺の肩をがくがくと揺らして強く問い詰めた。
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