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第7話【いまという名の過去④】
照明を落とした室内に荒々しい吐息と熱とシーツの擦れる音が混ざり合う。
「……っ」
キスは、うまかった。ぬるりと咥内を粘膜をくすぐってくる舌の動きは生き物みたいで身体がいっきに熱くなる。
初めて会った男とっていうのも興奮材料になってるのかもしれない。
俺は夢中で啓介さんの舌を追って絡みつかせた。
さっきまで煙草を吸っていたから煙草の匂いが俺の咥内にも充満する。
俺は煙草吸わないけどまわりは吸ってるやつばかりだし煙に抵抗はない。
それどころかこれがこの人の味なのかなんて考えてた。
「ン……っ」
キスだけで頭の芯まで熱くなってきていたら不意に胸に手が這ってくる。
腰にタオルだけだったから素肌を当然のように啓介さんの手が動いて、真っ平らな胸で勃ちあがってる部分を指先でこねられた。
自然と眉が寄って吐息を噛み殺す。
その動きが唇越しに伝わったのか、啓介さんは顔を離すと欲に濡れた目で俺を見下ろした。
「声、我慢しなくていいからね」
「……」
少し照れくさくて小さく頷くとふっと笑いながら啓介さんはガウンを脱ぎ捨てた。
全身が露わになる。もちろん下肢も。
俺と同じようにすでに岐立したソコはわりと大きくて、軽くほぐしておいてよかったと密かに思いながらチラチラ見てしまう。
この人も興奮してるんだな、って安心して、その事実にまた興奮してたら啓介さんが眼鏡をはずし髪をかきあげた。
「見える?」
「え?」
「いや眼鏡。外して俺の顔見えるのかなって」
そういや風呂上がりも眼鏡かけてたな。
「ああ、大丈夫だよ。すごく悪いってわけじゃないんだ。仕事絡みでパソコンしすぎで視力落ちてきてね」
「ふうん」
「まぁ少しはぼやけてるかもしれないけど……ヨウくんの顔はちゃんと見えるよ」
「……」
ここもね、とすでにタオルが解け見えていた俺の半身に触れられた。
わかっていたことだけど少しの触れ合いで俺のはもうガチガチだった。
俺のに啓介さんのものが擦りつけられる。
「んっ……」
二本を握りこみ上下に扱き始めながら啓介さんは俺の肌にキスを落としてくる。
さっきも触れられた胸の突起を口に含み舌で転がされ否応なしに焦れた吐息が漏れた。
くちゅくちゅと響く水音は俺の先走りの音なのか。
啓介さんの手が動くたびに、硬いものが擦れ合うたびにぬるりとした感触が増えていく。
気持ちよさに腰を揺らせば、
「ヨウくん」
と呼ばれた。
一瞬誰のことはわからずにワンテンポ遅れて啓介さんを見る。
―――本名言おうかな。
「うつ伏せになって」
腰を撫でられ言われるままに身体を反転させた。
俺のはまた握られ啓介さんの半身は離れていきそれに寂しさを覚えていると腰を持ち上げられキスが背中からだんだん降りていく。
そして後孔に舌が触れて舌先がはいりこんできた。
「っ……汚い……っ」
舐められたことは初めてで羞恥に顔が熱くなる。
逃げようとしたら腰を押さえられてさらに舌が入り込んでくる。
指とは違う感覚。
ざらついた舌が肉壁を這い出入りするたびに妙な刺激が身体を疼かせる。
気持ちいいかよくないかでいえば―――前者。
シーツを握りしめて額を擦りつける。
半身も変わらず扱かれていて、二か所を同時に責められ俺の身体はビクビクと震えが止まらなかった。
「啓介さ……っ……」
あっという間に吐精しそうでやばい。
俺のを扱いている手に手を伸ばし握りしめる。
ずるりと舌が抜けて、吐息が濡れたそこに吹きかかってきた。
「気持ちよくないかな?」
「っ……や……、いい、です」
イキそうで……と肩越しに振り返って呟くと啓介さんは一瞬黙ってから後孔に触れてきた。
唾液で濡れたそこに指をゆっくりと沈めてくる。
「もうイキそうなのかい?」
舌では届かなかった奥へと指が内側を確認するように進んできた。
その指はあっさりと前立腺を探し出す。
「く……っ、ぁ」
ぐりぐりと刺激されてはっきりとした快感に腰が揺れてしまってたらいきなり指が引き抜かれた。
なんで、と生理的な涙のせいで霞んだ視界の中、啓介さんを捉える。
「そんな顔で見られたら自制心きかなくなりそうだな」
苦笑しながらも雄臭い顔で啓介さんは俺の尻を撫でるとベッドサイドにあるローションを取り俺を仰向けにした。
俺いまどんな顔してるんだ。情けない顔?
俺の脚を割開き腰を持ちあげられる。たっぷりとローションを垂らされまた指が今度は二本挿入された。
「もっと時間かけようかと思っていたんだけど……俺もヨウくんに挿れたくてたまらなくなってきた」
それに自分でもほぐしてきた? ナカ柔らかい、と啓介さんは内腿に半身を擦りつけけてきた。
硬いものの先から濡れた感触に身体が疼く。
「っ……、シャワーで……少しだけ……」
もう一本増やされても大丈夫なくらいだってのは自覚ある。
口元を緩めながら啓介さんがまた一本指を追加した。
「―――……ヨウ」
掠れた声で急に呼び捨てされて心臓が跳ねた。
「……啓介さん……あの」
ぐっと身体を押し付けキスしてきようとしてきた啓介さんの肩に手を置く。
「……なに?」
「……俺……すみません、嘘ついてました」
いまさらだけど、やっぱり知らない名前で呼ばれるのが段々嫌になってきていた。
啓介さんは眉をひそめ俺を見つめる。
「いや……その……名前……ヨウじゃないんです」
「え?」
「初対面で……その……行きずりだしなって……軽い気持ちで嘘ついて」
でも啓介さんには本名で呼んでほしくなってきて、と、ごめんなさい、と謝った。
怒るだろうか。
すぐそばにある目をじっと見つめて反応を待つと、啓介さんはふっと頬を緩めた。
「いいよ。なんとなく気持ちがわかるし。それで本当の名前、教えてくれるのかい」
ほっとして頷く。
「ヨウっていうのは俺の字の別の読み方なんです」
「へぇ」
「太陽の陽って書いて、ひかる」
少し女っぽい名前だなと思ったころもあるけど、気にいっている自分の名前。
「……陽……?」
ぽつりと呟き、何故か啓介さんは大きく目を見開いた。
どうしたんだろう。
「啓介さん?」
不思議に思って声をかけると啓介さんは我に返って視線を揺らす。
「……19歳だっけ……?」
「そうですよ。今年20。いま大学2年生。それは嘘じゃないですよ?」
「……誕生日っていつ……?」
「え? 10月17日です」
「……」
呆然としている啓介さんに困惑する。
なんだ?
「……どうかしました? やっぱり俺が嘘ついてたのが」
身体はじりじりと疼いて止まってしまってる刺激を欲してる。
でも啓介さんが俺に呆れてもういいって言ってしまえば終わりだ。
けど―――初対面だけど俺はもっと触れてほしかった。
「……啓介さん」
手を伸ばしいまだに固まってる啓介さんの首に手を回す。
そして俺からキスした。
びくり、と啓介さんが身体を震わせるのに気付きながらも舌を差し込む。
縮こまっていた舌に触れて、絡めて。
反応がなかったけどひたすら動かしていたら不意に啓介さんの舌も動き出した。
角度を変えて深くなっていくキス。
互いの唾液がまざりあう、最初にしたキスよりももっと濃いキス。
食われてしまうんじゃないかというくらい激しくて息があがる。
それでも熱に浮かされたようにキスを続け、半身を擦るつけるようにして啓介さんに抱きついた。
互いの身体が隙間なく密着して啓介さんのものが萎えていないことに安堵する。
「―――……陽」
その声が妙に切なく、けど愛おしそうな響きがあって快感に支配された頭の端で疑問に思ったのは一瞬だった。
「俺の名前……知ってる?」
「啓介さんでしょう? もしかして啓介さんも偽名?」
「……いや。本名だよ。……俺のこと呼び捨てでいいから」
「え、でも」
さすがに倍近く年上のひとを―――と戸惑ったけど啓介さんが泣き笑いみたいな顔していて俺は手を伸ばして頬に触れた。
「……わかった。啓介」
その手をとって啓介さんが唇を押し当てる。
伏せた睫毛が微かに震えた気がした。
「啓介……もう一回、キス」
しよう、と誘って返事を待つまでもなく唇を塞がれた。
***
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