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第1話

「あーあ… 仕方ないですね。このまま朝まで待ちますか」  告白され、振ったばかりの男と二人、閉じ込められてしまった。  つい余計な事を口走ってしまう。 「どうして君が、こんな僕なんかと……」 * * * * * *  会議室のテーブルの下で銀行アプリを立ち上げる。  収支を確認…と。今月も給与は振り込まれている。  会社がきちんと給与を払う以上、僕はこのつまらない会議にも参加しなくてはならない。 「スタッフの制服、ショップ内の新作からトップスは白系、ボトムは黒系、シューズは自前でコーデは各自にお任せしてみては?社員もバイトも3割負担買取でお願いしたいけど?」 「商品だとスタッフか客か判りにくいよ」 「目印に1色足しましょう。お客様が付けていなくて目立ちそうな…ピンクのバンダナはどうですか?ボトムのポケットからチラ見せで!」  それはやめてください、トラブルの元にしかならないです! と、発言した方がいいだろうか?  いや、放っておこう。今この場で理由を問われても答えられない。 『ズボンの尻ポケットからピンクのハンカチを垂らす=ナンパ待ちゲイのサイン』  なんて説明をして、わざわざ自分の性癖を職場にカミングアウトする必要はない。  僕の立ち位置は省エネ。利用できるものは利用する。余計な口出しせず、害にならず、お得に生きていけたらいい。  縁故を使って、安定企業に絞って面接を受けたら、紳士・婦人の既製服を製造販売しているこの会社が拾ってくれた。  僕の才能が魅力的で…という理由ではないことは解っている。叔父がこの会社と大きな取引をしているから、僕を人質として囲っておきたいのだ。  ようやく会議は終わり、皆一斉に席を立つ。  僕の仕事は、直営の紳士向けカジュアルウエア店舗の運営。巡回、欠員を補充、現場の空気を整えるのが本来の役割(のはずだがなんの知識も無い)。  すいません覇気のないスーツ小僧で。現場のバイトさんの方がよっぽど活気がある。  外回り用に笑顔を貼り付けた。  訪店先へ向かう電車に揺られながら、ふと考える。  さっきの制服の件、指摘した方がよかったかな…  自分が矢面(やおもて)に立つのを避けたくて、新店舗立ち上げチームの同期にブログ記事『知らないと誘われる!?身近なゲイの見分け方』のURLと、雑談めいたメッセージを添えてLINEを送った。

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