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第2話

「それで?そのピンクのハンカチ、採用されちゃったんですか?」  帆立とほうれん草のクリームソースオムライス(バターライス)をパクつきながら、根越君が言う。 「担当に釘刺したからピンクはないと思う。まったく、勘弁して欲しいよ」  日替わりオムライス(今日は完熟トマトソースこんがりチーズ乗っけ 同じくバターライス)を頬張りながら答える。  午前中の会議は、近日オープンする大型ショッピングモール内のカジュアルウエア専門店立ち上げに関する案件。  そのバイト募集で採用された根越君には、研修として既存店のヘルプに入ってもらっている。運営側の僕の訪店時間が早番の上がる時間とかち合う事が多く、これまでも何度か食事を兼ねて現場の様子を聞いていた。  根越君は同類(ゲイ)。どういう訳か僕の事をすぐに見抜いてしまった。  まあ、根越君も解りやすかったけれど。仕事をこなしながら、他の男性を目で追っている頻度が…そういう雰囲気。  覚えが早く、受け答えも完璧なので社内の評価は上々。 新卒のペーペー、この仕事に知識も情熱もないのに"指導”に回る僕なんかより余程しっかりしている。  二十歳過ぎてバイト採用なんて、訳ありのフリーターなのか?と思ったけど、事情が違った。  根越君は春から服飾系専門学校に入学が決まっている。なんでも高校卒業後いったん就職し、自分で資金を貯めてようやく進学に漕ぎつけたのだそうだ。新人バイトといっても僕より社会人経験は長い。  客層に近い体形(公称172cm、実際はもう少し低いだろうな)と実年齢より幼く見える小顔で、彼が勧めるコーディネートは参考にしやすいだろう。  根越君は接客業に向いていると思う。  新店舗の、ルックス重視で決まったカリスマ風の店長より、人をよく見ている彼の方が上手く人員を回せるかも。  真摯に努力する姿は正直格好いい。こんな人間になれたらと思う。が、人質社員に努力も根性も向上心も要らないな…と、そっと目を逸らす。  自分が情けなくて、ランチの会計は僕が払う事で、ささやかに格好つけた。 「佐藤さん、ご馳走様でした!赤くないオムライス、めちゃ美味かったです!ハマりました!!また誘ってください♪」  あ、いえ、どういたしましてー  御礼に、と暖かい缶コーヒーをくれた。  根越君は何か話したいのだろうか。  手近なベンチに座って栓を開ける。

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