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第3話

 僕は彼に好意を持っている。知られてはいけないけれど。  真っ直ぐ見つめられると落ち着かない気分になる。  根越君が話を切り出す。 「俺、佐藤さんが好きです。恋人になりませんか?」  直球……!  喜んではいけない。色恋は駄目。恋人にはなれない。 「社内でトラブルを起こさない」  それは縁故入社の恩恵を受ける者の最低限のモラルだから。  感情に蓋をするのは日常茶飯事。お手の物だ。  未練を残さないために、速攻定型文で斬る。 「ゴメン付き合っている人が居るから」  声が上擦ってしまった! まあいい、根越君の出方を伺う。神様仏様!頼むから、彼に仕事を辞めたいとか思わせないで下さい。 「ですよね♪ 解りました」  おお?笑顔だ。 「でも『忘れて下さい』とは言いません。覚えてて下さい!何回でも言いますから。俺、嫌われてないの解るんです♪ あ、佐藤さん電話鳴ってます、どうぞ出て下さい?」  ああ、メンタル強いタイプ……  鳴り続けるスマホの画面には部長の名前。仕事の電話は無視できない。  通話の間もずっと視線を感じる。  僕の黒いスマホは、極細レインボーカラーのバンパーケースが付いているのだ。 『レインボーは出逢い待ち同性愛者のサイン。』  レインボーカラーのフラッグを掲げた酒場があったら、ノーマルの人は近付かない方がいい。  根越君は気づいた?  本当は僕はフリーだって。さっきのはウソだって。 * * * * * *  部長の指示で店舗建設地に向かう。工事中の店舗に、誤って発送された大量の商品を受け取り、倉庫に詰める指示だ。  開発中の埋め立て地にバスは無く、タクシーに乗った。  何故隣に根越君も乗っている?  交際の件は即答で断った筈だけどメンタル強すぎるだろう…… 「自分の働く所、見てみたいのは当然でしょう? タクシーなら何人乗っても同料金ですよね♪」  まあ確かに料金は同じですがね。

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