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第1話

男は、ただ空を見ていた。 否、そこに空はなかった。青々しい葉がそれを阻んでいたからだ。 それでも男は空を見ていた。 それは男にしか見えない、それを阻む葉よりも青い青い、限りなく続く空だ。 ヒュッと風を切る小さな音が聞こえた。何度も何度もそれは男の耳に届く。何故なら、それは男の喉から発せられた音だからだ。男の喉は原形を辛うじて留めていたが、それは醜く潰れていた。 だが、それは喉だけではない。 腕も脚も。 四肢は全て潰され、切られ、紅く紅く、限りなく紅く、土壌を塗りつぶしていた。痛みは限界を超え、既に霞がかった脳はそれを痛みと理解しなかった。 「…っ、…く…」 空気が外に漏れ出す度に、男の喉に張り付いた紅は泡立った。 「…、…、…、…」 そのうち、規則正しくそれは上下し出す。喉だけではない。腹も、胸も。 身体が小刻みに震えだした。 「…、…、…、…、」 男の双眼は細まり、口角は上がり――――男は、笑っていた。 もしも、そこに声があったのならば、それは風に乗って誰かの耳に届いたかもしれない。 何かを嘲るような、そして、満ち満ちた哄笑が。

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