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残り火2nd stage 第1章:今までで一番、熱い夏!7

*** 「千秋……千秋、眠ったかい?」 「…………」 「ふっ。浮かれていたのは、俺だけじゃなかったのにな。何だかんだ言って君だって充分、浮き足立っていたよ」  驚いて大声を出せないように、出会い頭に手で口を塞いだのはそのためだったが、嫌がらせをした俺を非難しながらも、目がずっと笑っていた。  逢えて嬉しいってずっと誘うような眼差しで見るものだから、それに応えてしまった。考えもなしに、無茶苦茶にしてしまったんだ。 「こんなに線の細い君を手荒に何度も抱いてしまって、悪かったと思ってる。ごめん……」  疲れきって眠ってしまった千秋の頬にキスをして、その身体をぎゅっと抱きしめる。  帰ってきたというか、戻ってきたというか――君の香りもぬくもりも俺への想いもそのままだっていうのに、部屋に押し入った瞬間、五感が敏感に反応してしまった。  まだ抜け切れていない昨日の宴会の雰囲気や、煙草の残り香が部屋の中に漂っていた。その場を楽しく過ごしたであろう千秋には大変申し訳ないが、1日お預け食らった分に嫉妬心が加算されたのは、いうまでもなく――。  久しぶりの再会だからこそ優しくしなければという、もうひとりの自分の言葉をしっかり無視して、力任せに床に押し倒して力任せに服を脱がし、力任せに抱いてしまった。  数歩先にはベッドがあるというのに、冷たい床の上に千秋を組み敷いた俺はあのとき、どんな顔をしていたんだろう。 『あっ、はぁっ、……穂高さ……ん……ぅ!』  ――文句を言いかけた君の口を、まずは塞いでから。 『さっきの言葉を言うまで、絶対に離さないよ千秋。止めてあげない』  耳元で囁いて、耳の縁をなぞるように舐めあげる。自分でも驚いてしまうくらいのアヤシげな声色に、千秋自身も相当驚いていたんじゃないかな。 『はぁう…… ひっ……あっ、あっ……』  切なげな表情を浮かべながら甘い声をあげるこの姿は、俺だけが見ることのできる特別なもの。 『いきな、り、どこさわ、あっ、ひゃっ……やめっ――』  いきり勃ったコレとか俺を感じさせてくれるココとか、千秋の感じる部分すべて、自分だけが触れることを許されているというのに。 『止めないよ。もっと感じてごらん』  床の上で粋のいい魚のように動く淫らな千秋を、押し寄せてくる膨らんだ感情が更に追い討ちをかけた。  室内のむっとする熱気が、俺たちを包み込む。手早く自分の服を脱ぎ捨てて、首筋に顔を埋めた。目に入るのはやはり、自分がつけてしまった痣。綺麗な白い肌についてるそれが、千秋が俺のものだという印に見える。    その部分に刺激を与えたら、更に色濃くなってしまうのは容易に想像ついたが、嫉妬心とか独占欲で支配してる心が俺を簡単に突き動かした。 『はっ!? っ、いっ……んっ!』  消えない痣ができてから、こんな風に強く咬まずにいた。今頃、どうしてだろうと思っているか。 『ほ、穂高さんっ、痛いよ……』  俺の背中をバシバシ叩いて、痛みをアピールする千秋の顔を見やる。  男が差し出したペットボトルを、美味しそうに飲んだ罰だよ。なぁんて言ってやりたかったが、それを口にしてしまうとどんどんイジワルに拍車がかかるから我慢だな。 『千秋も、俺を咬んでくれ』  しれっとしながら強く咬んだことを謝らずに、左首筋を差し出してやると、勢いよくはぐっと咬みついてきた。咬みつきながら、ちゅぅっと皮膚を吸う感覚が伝わってくる。 『くっ、千秋っ!』 『穂高さん、穂高さんっ……もっと』  もっと――何だろう? と思ったので聞き取るべく耳を傾けてやったら、いきなり耳朶を吸い上げながら、きゅっと甘噛みする。 『わっ……ダメだよ、千秋』  感じるには感じるがくすぐったさが先行するので、これは違うことになってしまう。 『穂高さん逃げないで。感じてるところが見たいんだ』  掠れた声で告げた千秋の表情は、ものすごくそそられる何かがあって、見てるだけでゾクゾクさせられた。 『俺の感じるところがみたいなら、千秋が感じればいい。それだけで感じることができるから』 『だって……』 『千秋のあげる声や仕草ひとつで、俺のがこんなになってるんだよ』  空いてる右手を掴んで、その部分に導いてやる。 『わっ!!』 『ね、すごいことになってるだろう?』 『あの……その、あ――』 『俺をこんなにした罰、その身に受けてくれ……』    柔らかい千秋のくちびるに強く、自分のくちびるを押しつけた。その後、千秋を先に感じさせてあげてから、力が抜け切ったその身体をぎゅっと抱きしめ、ひとつになった。 『ぅっ……ひっ…うっ……』 『大丈夫かい、千秋?』 『ぁ、く、苦し、ぃ……』  長い睫を揺らしながら、肩で息をしている千秋。苦しさのあまりに歯を食いしばっている姿すら、愛おしくて堪らない。  あまりの可愛さに、更にぎゅっと抱きしめてしまった。 『くっ、息がっ……できな、いよ』 『やっとひとつになったというのに、文句を言うなんて。結構無粋なんだな君は』  苦笑いしながら力を抜いてやると、涙目で俺を見つめる。 『もっと優しくしないと俺、壊れちゃうかも。さっきから強引すぎますって』 (強引にさせている原因を、君が作っているというのに――) 『だってさっきから穂高さんが、俺の言うことを無視して、どんどん――っ!?』 『どんどん……なんだい?』 『んぁっ、い、きな、りっ!?』  他にもいろんな文句を言いながらも、しっかり感じて俺を受け止めてくれる千秋をじっと見つめ返してやる。 『あぁ……やめっ、ほ、らかさんっ、も!』 (マズいな――淫らな千秋を見てるだけで、いつも以上に感じてしまっているじゃないか) 『よいしょっと、大丈夫かい?』  余裕のあるフリをして、千秋を抱き起こしてあげた。硬い床の上に、いつまでも寝かしておくのは可哀想だから。 『はぁはぁ……。ほらかさん、ってば……激しすぎ、れすよ』  ぐったりした千秋は俺の肩に頭を乗せて、やっとという感じで体を抱きしめてくれる。  ――重なった素肌の熱が、すごく心地いい。 『だったら今度は、千秋が上になるかい?』 『そう言いつつも、何か企んでるでしょ? 穂高さんの目、アヤシく光ってる』 『そんな風に言ってくれるが、企む余裕なんてさらさらないよ実際。ただ――』  間近にある千秋の潤んだ瞳が、俺の顔を食い入るように見つめた。それだけで感じさせることができるって、君は知らないだろうね。   『千秋と深く愛し合いたいだけ。愛されたいだけなんだ』  細い身体を、ぎゅっと抱きしめ返す。 『穂高さん……』 『激しさで愛を示すことができるなんて思っていないが、こうやって求めずにはいられなくてね』 『あの……嬉しい、です。嬉しいけど戸惑っちゃって』  睫を伏せて、耳まで顔を赤らめた千秋がすごく可愛い――。 『恥らう姿もいいけど、同じくらい求めて欲しいな。俺を欲しがってくれ』 『ま、また難しいことを言って……』 『そんな難しくないって。だって目に見える形で、君は俺を求めているワケだしね』  笑いながら目に見える形を、ぎゅっと握り締めてやる。 『んっ、ぅぁ――』 『身体全部で、俺を求めて千秋。君だけなんだよ、俺を感じさせることができるのは』 『ほ、だかさんっ、そん……なに、しちゃっ!』  言いながら容赦なく、千秋の中にある俺自身をぎゅっと締めあげてきた。ダメだ、我慢の限界が――室内に、俺たちの荒い息遣いがこだまする。 『あぁっ……穂高、さんっ…好きぃ、いっ!』 『千秋、ちあ、きっ、俺も、だ……ん、っ――』  先ほどまでの行為をぼんやりと思い出しながら、寝てしまった千秋を優しく抱きしめ直す。  以前ならこんなときは煙草を吸って嬉しさを噛みしめていたが、そんなものがなくても満たされている気持ちの原因は、きっと――。 (千秋が俺を好きでいてくれるから。求めてくれるからなんだろうな)  落ち着かないような切ない愛しさを抱きしめて、この日は何とか眠りについたのだった。

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