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残り火本編第一章 火種15
言わされてしまったような感じの告白に、どうにも頭が追いつかず、身体もどこかふわふわしていた。
俯きながら穂高さんの背後にちょっとだけくっついて、お家にお邪魔した時も地に足がついてない感じだった。
「どうぞ……」
そんな俺にふわりと笑って、リビングに通してくれる。目に映ったのは、黒とグレーと白の3色の色合いで統一された家具。まるでモデルハウスみたいだ。
お洒落な部屋の作りに見入っている傍で着ていたコートをハンガーにかけ、壁につるしてから、俺に向かって手を伸ばす穂高さん。何の気なしに自分の手を乗せたら、ぷっと笑われてしまった。
「着ているブルゾン、欲しかったんだが」
「えっ!? わっ、そそ、そうですよね。何やってんだ……」
いくら頭がふわふわしているからって、いきなり懐きすぎだろ。――恥ずかしすぎる。
置いてしまった手を引っ込めようとしたら、逃がさないと言わんばかりに、ぎゅっと握りしめてきた。
「……俺が脱がしてあげるよ。全部」
薄い笑みを口元に湛え、ぐいっと腕を引っ張られる。そして俺の背後に回りこみ、後ろ手からブルゾンのファスナーを、ゆっくりと下ろされてしまった。うなじにかかる吐息が、やけにくすぐったく感じる――
「自分でやりますので。そこまでしなくて、いいというか……」
くすぐったさを必死にガマンしたら、声が震えてしまった。変に掠れてしまった声色に、焦りを覚える。穂高さんに感じてること、きっとバレたに違いない。
照れる俺を尻目に、するりと脱がしてくれたブルゾンを、白いソファの背にかけた。
「自分でやるって、どこまでするんだい?」
ぎゅっと羽交い絞めしてきた力強い両腕。耳元で囁かれる言葉に、一気に体温が上がった気がする。
「ぶ、ブルゾンくらい自分で脱げるということで、他のは――」
「……俺に脱がせて欲しい?」
間髪いれず告げられた言葉に、首を激しく横に振ってみせた。
背後にいる穂高さんの体温と一緒に、熱り勃ったアレが伝わってきて、目を白黒するしかない。
「耳まで真っ赤にして、そんな恥らう君も堪らないね」
吐息をかけながら、うなじにちゅっとキスを落としてきた。
「んぅっ!?」
ぞくっとした感覚に変な声を出してしまい、甘い雰囲気をぶち壊してしまう自分。なのに穂高さんはイヤそうな顔を一切せず、じっと覗き込むようにして、俺を見つめてきた。それはそれは、愛おしそうに――
「このまま寝室に連れて行っても、いい?」
「はい……」
「イヤだと言われても、無理矢理に連れて行く手筈だったのに、随分とあっさりOKしたんだね」
瞳を細めて嬉しそうに聞いてくれたのだが、俺としてはこれでも迷っていたんだ。ここまで来るのに随分とムダに、知能を駆使して考えまくっていたのだから。
「だって穂高さんに抵抗しても、勝てる気がしませんから。はい以外の言葉が、見つからなかったし……」
「君のそういう聡明なトコ、惹かれてやまないね。どうしてくれるんだい、こんなに好きにさせて」
弾んだ声色で言いながら、後ろから隣の部屋へと誘導してくれる。
扉を開けるとリビングの漏れた明かりで、そこが寝室だと分かった。そのまま俺をベッドに座らせると、傍に置いてあるリモコンを手に取り、間接照明の明かりをつける。
ベッドの脇に置いてあるそれは、消しガラス製のたまご型をしたキャンドルグラスで、中を覗いてみたらライトが光を放っていた。
リビングの電気を消した穂高さんがすぐに戻って来て、俺が不思議そうにしている姿を、瞳を細めて笑う。
「何か面白いものでも、入っていたかい?」
「あ、その。キャンドルが入っているのかと思っていたので、ちょっとビックリしました」
「上手く出来てるだろ。それ、LEDキャンドルっていうんだよ。本物のロウソクの火のように、光が揺らめいているだろう?」
しゅっとネクタイを外して、ワイシャツのボタンを外していく。ライトの明かりがほんのりとその姿を映し出していて、何だか艶っぽく見えてしまった。それを悟られないように、慌てて間接照明に視線を移す。
「息を吹きかけると消せる機能もついているし、ほらリモコン」
ギシッと音を鳴らして俺の隣に密着するように座り込み、さっき手にしたリモコンを握らせるように手渡してきた。
「ライトの色は十二色あるんだよ。千秋はどの色がお好みかな?」
そのリモコンにはブルー、オレンジ、ピンク、グリーンなど十二色のボタンがあって、たくさんあるそれに、どれにしようかと迷ってしまう。
「千秋の肌の色がキレイに見える色は、どれだろうね」
腰を抱き寄せられ、ちゅっと頬にキスをされる。くすぐったくて肩をすくめたら、手に持っていたリモコンを取り上げられた。
「あ……」
「とりあえず、どの色がいいか全部試してみようか」
妖艶な笑みを浮かべる穂高さんの顔に、思わず魅入ってしまう。俺の持っていないものを、この人はたくさん持っていて、憧れずにはいられない――
優しく押し倒されてじっとしてると、胸元に手を置かれた。
「千秋のドキドキが伝わってくるね。俺のも触ってみる?」
ゆっくりと穂高さんの胸に、手を当てようとしたら――
「そこじゃなく、ここ触って……」
手首を掴まれ、強引に下半身を触らされてしまった。
自分のモノとは違うことに驚いて、手を開いたままでいたけれど、それでも穂高さんのドキドキが伝わってしまって、心拍数が更に上昇した。
「怖いかい? 千秋」
未知の世界に、今まさに足を踏み入れようとしているんだ。なので怖くないワケがない。
「……怖い、です。半分くらい」
この人のキスは気持ちいいと、身体は覚えている。その先だってきっと、そうなのかもしれないけれど。
行為に対しての恐怖心が半分、穂高さんを好きになり溺れるのが怖いということのが、半分といったところかもしれないな。
「怖いのを忘れるくらい、感じさせてあげる。千秋が感じてるところを見たいから……」
いつものように優しく髪を撫でてから、くちびるがゆっくりと重ねられた。何度も軽く触れてから、角度を変えて俺を貪るように、深くキスをしてくる。
「んっ、ンンっ、……あっ」
「まだ、……足りない、よ。もっと舌、絡めて。……俺を求めて千秋」
穂高さんが絡めてくる舌に、必死になって絡めているというのに足りないと言われ、喘ぎながらしている呼吸と一緒に、思いっきり吸ってみた。なのにそれ以上の力で、俺のことを吸ってくる穂高さん。くちゅくちゅと唾液の混ざる音が室内に響き渡った。
(――苦しい。……吸ってるのか吐いてるのか、ワケが分からない)
呼吸のままならないキスに、頭の芯がビリビリと痺れていった。
「……ん、あっ、……ぁ」
Tシャツの裾から、穂高さんの手が直に肌へと触れていく。手のひらと指先が身体の線をなぞるように、ゆっくりと下から上へ弄られた。
いつもは冷たい手なのに今は燃える様に熱くて、ちょっとした加減で、ぞくぞくしてしまう。
ただ触れられているだけなのに、どうしてこんなに感じてしまうんだろう。
「あぁっ、……うぁ、やっ、……ンンっ!」
ゆっくりとTシャツを脱がし、入れ替わりに穂高さんのくちびるが首筋に下りていった。
「……咬んで、いいかい?」
「へっ!?」
「千秋が、俺のだっていう印を付たいんだ。誰にも触れられないように、ね」
いつもより掠れた声で告げられた言葉に、眉根を寄せてみせる。そんなモノを付けなくたって、俺に触れる人は穂高さん意外いないのにな。
だけどこの人が望むのなら、出来るだけ何でも受け入れてあげたい。それが痛みを伴うことでも――
「咬んでいいですよ……」
ちょっとだけ、硬い声色で言ってしまった。そんな俺の声を聞いて、胸元に埋めていた顔を移動させ、わざわざ覗き込んでくる。
揺らぐように動くライトで照らされている顔は、本当にカッコよくて胸が痛くなってしまう。
そんな切なさを感じていたら、唐突に赤い色が部屋を包み込んだ。
――燃えるような、赤だな。まるで穂高さんの気持ちみたい。
「穂高さんのモノにしてって、言ってみてくれないか? 千秋の口から直接聞いてみたいんだ」
俺の緊張感を解くように、左手で頭を撫でてくれた。右手は愛おしそうに頬を擦る。
「俺は千秋のことが好きだよ。ひとつになって溶けてしまいたい。君の中に溶け込んで、ずっと一緒にいられたらいいのに」
赤いライトに照らされる、穂高さんの顔がぐっと近づいてきた。何だか自分が、ロウソクになった気分。穂高さんの想いという名の炎で、ドロドロに溶かされてしまいそうだ。
「俺を、穂高さんのモノにして下さ――」
息が止まるくらいの抱擁と一緒に、奪われた言葉とくちびる。求められるまま舌を絡めて、穂高さんの身体に腕を回した。
自分とはまったく違う、広くて大きな背中。あたたかくて守ってくれそうなそれに、やっとしがみつく。
ここから先は、ジェットコースターに載せられた子どものように、ムダに声をあげていた。恐怖心以上に与えられる蜜のような艶ごとに、ただただ身体を震わせて、あられもない声をあげるしか出来なかった。
「ああぁ、ぁ、……あぁ、んっ、……くっ」
身体中に穂高さんのくちびると舌が容赦なく這わせられ、感じるところばかり、執拗に責めたててくる。キツく咬まれても、その痛みさえ甘美なものに変わっていって――
「ぁ、……ん、……っ」
「んぅっ、……千秋、は、……俺の――」
「はぃ、俺は穂高さんのモノ、です……」
シーツをぎゅっと握りしめた手に、穂高さんのあたたい手が優しく添えられる。それだけで安心感が増すから不思議だ。
「千秋の、ここも……。ここも――」
掠れた声で言って、柔らかくそれを食んでいく。くすぐったさも手伝って、身体をよじってしまった。
ずっと熱いと思っていたのに、触れ合う肌の熱が侵食しあって、更に体温を上げていく。
「ここも、……俺のモノにしてあげる。全部」
「はぁっ、やぁっ、ソコ、は――」
「千秋の、おいしい。もっと感じてくれ」
敏感な部分に這わされる舌に、声にならない声をあげた。身体を駆け巡る熱いものが、その部分に集まってくるのを感じる。
「やっ、やめっ、……ダメ」
思わずズリ上がろうとした身体を引き留めるべく、腰に両腕を回されてしまい、逃げることが出来なくなってしまった。
「逃がさないよ千秋。中にも外にも俺のだっていう印、付けてあげるから」
「穂高さん、……っ」
捕まってしまった俺は、抵抗出来なかった。イヤで抵抗したんじゃなかったのに、何となく言ってしまった言葉が、酷く穂高さんを傷つけたのか、どこか寂しげな表情を浮かべた。
そのせいで余計何も言えなくなり、後はされるがまま、応じるままに身体を開いた。ひとつになるのはすごく苦しくて、何ともいえない圧迫感でイヤだと言いたかったけど、喘ぎながら言葉を全部飲み込んだ。
ただ、穂高さんの悦ぶ顔が見たかったから――
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