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12月25日(月)〈epilogue〉
開店前、いつも通り俺は小野と開店準備をしながら雑談をする。
もちろん、今日の話題はもっぱら彼、もとい葵くんのことである。
「小野には改めて感謝だわ。マジで小野の後押しがなかったら俺多分一生あのまま片思い続けてただろうし」
「まーね、だから私の言うこと聞いとけっつったでしょ」
「いやだからその自信は何処から来るんだっつーの」
「ちゃんとした根拠に基づいてに決まってんでしょ」
「は?根拠?どーいうこと」
予想だにしない返答に思わず作業の手が止まる。
「彼がこのコーヒーショップに通い始めた最初の土曜日に、いつもみたいにココア頼みに来たんだけど」
ついには作業の手を止め完全に聞く体制に入り続きを待つ。
「その時に彼が顔赤くして照れながら今日は辻岡さんって方いないんですか?って聞いて来たんだよね」
「は!?そんなの聞いてない」
「言ってないし」
「言ってくれれば良かっただろ…」
それを知っていればもっと早くに行動が起こせていたかもしれないというのに。まあ結果オーライでもう過ぎたことはいいのだけれど。
「彼の許可なく言っていいことなのか迷ったから言わなかったの。まあそれでもあまりにも二人とももどかしくて見てらんなかったからちょっと手助けしちゃったけど」
「それに関してはマジでサンキュ」
「ん、今度なんか奢んなさいよ。」
彼女のおかげで俺と彼の関係が進展したと言っても本当に過言ではない。
言われなくても、彼女には今度何か奢ってあげようと決め、準備を再開した。
***
朝8:00。
今日も彼がオーダーの列に並ぶのを確認する。
けれど、今日の俺はもう彼にとってただの店員ではないのだ。
その事実を実感し、改めて気分が高揚するのを感じた。
しばらくして彼の前の客が列を離れ、ようやく彼がとびきりの笑顔でカウンターの前に立つ。
「今日もココアでお願いします」
彼の笑顔を返すように、俺もとびきりの笑顔でハートマークの描かれたカップを彼に手渡した。
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