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第1話
馬車の荷台がガタガタ揺れている。舗装されていない山道を走っているせいか、いつもより揺れがひどかった。
それでもゼクスは、かまわずトークを続けた。
「……それでですね、今貴族のご婦人たちの間でブームになっているのは、意外なことにヘビでして。アレですよ、爬虫類のヘビですよ? 俺がいたペットショップでも、爬虫類の亜人間は大人気でした。もちろん、俺みたいな犬も人気だったけど」
本当は、それほどお喋りなタイプではない。空気を読んで黙っていることもできた。
それでも気にせず喋り続けたのは、荷台の重たい雰囲気を少しでも明るくしたかったからだ。これから「闇市」に向かうという不安を、皆に忘れさせてあげたかったからだ。
「……でも人気がある毛並みは白や黒で、上流階級のご婦人はなんかこう……ハッキリした色が好みらしいんです。そのせいか、俺みたいなグレーはあまり人気がなくて……おわっ!」
喋っている途中ガタンと荷台が大きく揺れ、ゼクスは荷台の淵にしがみついた。
ところが、腕力の弱い中年女性の亜人間は、バランスを崩して荷台から転げ落ちそうになる。
「あ、危ない!」
ゼクスは慌てて手を伸ばし、女性の腕を掴んだ。
「ありがとね、助かったよ」
「いえいえ、とんでもない。お怪我がなくてよかったですね」
女性を荷台に引き上げ、前方の御者に目をやる。彼はこちらのことなど目もくれず、我関せずと馬を走らせていた。
「あのー、ちょっとスピード落としてもらえませんか? そんなに急がなくても闇市は逃げないでしょ?」
「うるせぇ、バカ犬! 静かにしてろ!」
「……バカ犬って」
ゼクスのみならず、荷台に乗っている者は全員犬の亜人間である。犬種は違うが、それぞれ犬の耳と尻尾を持っていた。それがこれから闇市に売られに行くところなのだ。
「それにしてもあんた、元のペットショップで売れ残っちゃったのかい? せっかくの美形なのにもったいないねぇ……。その顔の傷さえなければすぐに売れただろうに」
と、先程助けた女性が言う。
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