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第7話
「ちょ、ちょっと待ってください! 勝手にどっか行かないで!」
助けてもらったのは自分の方だ。お礼も何も言ってないのに、このまま別れるなんてできない。
「あの、こちらこそありがとうございました。あなたのおかげで命拾いしました。お名前、教えてくれませんか?」
「名乗るほどの者じゃないよ。私とは会わなかったことにした方がいい。私のことは忘れてきみは帰りなさい」
「そんなこと言わずに。命を救ってもらったのに、相手の名前も知らずに立ち去るなんてできません。犬は恩に報いる生き物なんです。あなたに恩返しするまで、俺はあなたから離れませんからね!」
「そんなのいいから早く山を下りなさい。またガルーに襲われたら大変だろう? 大事なご家族を心配させちゃいけないよ」
そう言われて、チクンと胸が痛んだ。
家族? そんなものいない。俺はペットショップで生まれて、親・兄弟の顔も知らずに育った。そのペットショップですら、今日追い出されたばかりだ。
帰るべき場所も、待っている家族もない。それで一体どこに行けというのだろう……。
ゼクスは思わず呟いた。
「行くあてがあるのなら、最初からあんな山道を通ったりなんか……」
「えっ……?」
男性の目が揺らいだ。直感で自分の目と同じだと思った。これは孤独を知っている人の目だ。世間に溶け込むことのできない人の目だ。
「……しょうがない。ついて来たいなら一緒に来なさい」
「は、はいっ!」
背を向ける男性を、ゼクスは嬉々として追いかけた。夕暮れが迫りつつあった。
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