6 / 12

第6話

 余計な石を取り払い、できるだけ地面を平らにならしてから、ゼクスは男性を横にした。  男性はまだ目を覚まさなかった。汚れた服はどうにもならなかったけれど、呼吸そのものは穏やかで、身体もすっかり元通りになっていた。 (やっぱりこの人、普通の人じゃないんだ……)  怪我の治りが早いというレベルではない。まるで時間が巻き戻っていくかのように、傷が塞がっていく。普通の人間だったら、おそらく病院に行っても間に合わなかっただろう。  そういう魔法があるんだろうか。それとも特殊な体質なんだろうか……。 (まあ、チャンスがあったら聞いてみるか……)  ゼクスは固く絞った布で、黙々と男性の身体を清めた。怪我はなくなったけれど、こびりついた血や体液は拭かないと落ちない。  汚れた顔を綺麗にしてみたら、男性の整った容姿が露わになった。見た目は三十歳前後だろうか。穏やかそうな優男で、いかにも知的な雰囲気が漂っている。さすが魔法使いさんだ。 「っ……」  その時、男性が小さく呻いた。閉じていた睫毛が震え、ゆっくり上下した。真っ黒な瞳がこちらを見据えた。  ゼクスは彼を覗き込みながら、話しかけた。 「あっ……あの、大丈夫ですか?」 「…………」  男性はゆっくりと身体を起こした。そして自分の手のひらを見つめ、やや自嘲気味に微笑んだ。 「……またか」 「ええと、あのー……?」 「きみが助けてくれたのか。余計な世話をかけてしまったようだね。どうもありがとう」  そう言い置き、立ち上がって歩き去ろうとする男性。

ともだちにシェアしよう!