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第6話
余計な石を取り払い、できるだけ地面を平らにならしてから、ゼクスは男性を横にした。
男性はまだ目を覚まさなかった。汚れた服はどうにもならなかったけれど、呼吸そのものは穏やかで、身体もすっかり元通りになっていた。
(やっぱりこの人、普通の人じゃないんだ……)
怪我の治りが早いというレベルではない。まるで時間が巻き戻っていくかのように、傷が塞がっていく。普通の人間だったら、おそらく病院に行っても間に合わなかっただろう。
そういう魔法があるんだろうか。それとも特殊な体質なんだろうか……。
(まあ、チャンスがあったら聞いてみるか……)
ゼクスは固く絞った布で、黙々と男性の身体を清めた。怪我はなくなったけれど、こびりついた血や体液は拭かないと落ちない。
汚れた顔を綺麗にしてみたら、男性の整った容姿が露わになった。見た目は三十歳前後だろうか。穏やかそうな優男で、いかにも知的な雰囲気が漂っている。さすが魔法使いさんだ。
「っ……」
その時、男性が小さく呻いた。閉じていた睫毛が震え、ゆっくり上下した。真っ黒な瞳がこちらを見据えた。
ゼクスは彼を覗き込みながら、話しかけた。
「あっ……あの、大丈夫ですか?」
「…………」
男性はゆっくりと身体を起こした。そして自分の手のひらを見つめ、やや自嘲気味に微笑んだ。
「……またか」
「ええと、あのー……?」
「きみが助けてくれたのか。余計な世話をかけてしまったようだね。どうもありがとう」
そう言い置き、立ち上がって歩き去ろうとする男性。
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