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第10話
美味しい。こんな美味しいスープ、飲んだことない。味付けは塩とコショウのみなのに、どうしてこんなに美味しいんだろう。
じわりと視界が滲んできて、気付いたらボロボロ涙をこぼしていた。
「おや、大丈夫かい? 口に合わなかったかな」
「あ、違うんです。スープがあまりに美味しくて、それで……」
「……そう? 野菜をちょっと煮込んだだけだけど」
「でも、本当に美味しくて……。ペットショップで出ていた食事は、栄養バランスだけは完璧だったんですけど、あまり美味しくなくて。味はよかったのにいつも物足りなくて。でもこのスープは、具は少ないけど……本当に、すごく美味しくて……」
「…………」
「『誰かと一緒に食べる食事は美味しい』って聞いたことありますけど、あれって本当だったんですね。いつもケージの中で一人で食事を取っていたから、こうやって誰かとご飯を食べるのは初めてで……。こんなに違うのかって、ちょっと感動しちゃいました」
「……なるほどね」
ゼクスにハンカチを差し出しながら、エンデは小さく微笑んだ。
「じゃあ、きみの飼い主は大家族に絞って探そうか。たくさんの人に囲まれていた方が、食事も美味しくなる」
「えっ? いや、そういうことじゃ……」
「さあ、早く食べてしまいなさい。食事が終わったらベッドを作らなくては。生憎、ここには客用の布団なんてないからね」
「いや、あの……」
柔らかだけど、有無を言わさない口振りだった。私は誰とも関わるつもりはない……と、態度で表していた。
――私は誰かを助ける以上に誰かを殺しているから。
その言葉が蘇ってきて、ゼクスは呟くように聞いた。
「エンデさんは……魔法で人を殺したから、呪われたんですか?」
「……そうだよ。それはもうたくさん……街ひとつ滅びるくらい、たくさん殺した。だから私はもう死ぬまで誰とも関わらない。過ちを犯した人間には孤独がお似合いなんだ」
「そんな……」
二人の間に沈黙が下りた。それ以上はゼクスも何も言えなかった。
(でも……これから先もずっと死ぬまで、独りぼっちの食事が続いてしまうのは……)
スッキリしない気持ちを抱えたまま、ゼクスは食事を平らげた。
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