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第1話

 放課後を知らせるチャイムが鳴ると、僕はいつものように、一年三組の教室に向かった。 「たっくん、お待たせ。帰ろう」  僕が呼びかけたのは、幼馴染のたっくん。彼は自分の席に姿勢良く座って待っていた。ただそれだけなのに、絵になる。  たっくんは、背が高く顔も良く声もセクシーで、見た目に関しては文句の付け所がない。  たっくんは僕の呼びかけに動こうとはせず、無表情に視線をこちらへ向けただけだ。 (あれ、なんか怒ってる……? そういえば、今朝もなんか妙に無口だったな)  なんの心当たりもなく、僕は一瞬戸惑ったが、すぐに相手がたっくんだと思うと、落ち着いた。 (たっくんの事だから、どうせまたよく分からない事で腹を立ててるんだろうな)  学年一かっこいいたっくんは、学年一の変人でもある。一日中花を見つめていたり、蟻の巣を見つめる子供のような一面がある。そして、僕なしでは生きられないと平気で公言してしまう。たっくんの外見に魅かれた女子も中身がただの五歳児だと知るとあっという間に身を引くのも納得だ。  だから普通の友人なら、(なんだ、こいつ頭おかしい)とか酷いことを思うだろうが、この程度では驚いていては、たっくんの幼馴染は務まらないのだ。少々の事では動じないと決心すると、僕はあえて笑顔で話しかけた。 「たっくん、帰らないの?」 「違うでしょ、まーくん!」  たっくんは責めるように口を開いた。ちなみにまーくんとは僕のことだ。 「『どうして君が、こんな俺なんかと一緒に下校してくれるの?』って、言わないと!」  たっくんがあまりに真に迫っているので、僕は求められた台詞を復唱しようとした。 「どうして君が、こんな僕なんかと……」  しかし、言いかけて我に返る。 「ちょっと待って。何で一緒に帰るのにそんなに下手(したて)に出ないといけないの?」  納得出来ずに反論する僕にたっくんは勝ち誇ったように笑った。 「それは、俺が王子だから」 (なんだ、こいつ頭おかしいぞ)  僕は冷たい目で、席に座るたっくんを見下ろした。

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