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エピローグ
お互い落ち着く頃には日が暮れていた。
ベンチの上に山のように積み重なった落ち葉を二人で取り除き、そこに並んで腰掛けた。
「ごめんね、年末年始一緒に過ごせなくて」
たっくんは申し訳なさそうに言った。
「カップルか」とか「一緒に過ごす約束した覚えはない」だとか、色々頭に浮かんだが、それらは飲み込んで、僕は別の言葉を紡いだ。
「そんなに嫌なら、断ればよかったのに」
「おばあちゃんの頼みを断れなくて……」
「ふぅん……、僕よりおばあちゃんを取ったんだ」
言った後にすぐに後悔した。
(僕は、何を言ってるんだろう。これじゃ、まるで聞き分けの悪い恋人みたいじゃん……)
案の定、たっくんを見るとにやにやとした表情を浮かべて、こちらに迫ってきた。
「なに笑ってんだよ!」
「だって、まーくんがヤキモチ妬くんだもん。それも、おばあちゃん相手に」
「妬いてない」
僕が顔を背けると、たっくんはその肩に顎を乗せてきた。そして、優しく抱きしめてくる。
「大丈夫。まーくんが一番好きだよ」
耳元で囁かれた言葉に、ぞくりとして思わず振り返った。
「……あ……」
馬鹿なの、なに言ってるの! という台詞は喉から出ず、言葉にならない声が小さく漏れただけだった。
顔が熱い。
きっと赤くなったであろう僕の頬をたっくんの大きな手が包んだ。たっくんが真剣な眼差しで僕を見つめる。さっきまで泣いていたせいか、目尻が赤い。幼馴染なのにたっくんの顔をこんなに間近で見たのは、初めてだ。
心臓の音がうるさい。
長いまつげに見とれる内にたっくんの綺麗な顔が迫ってきた。
(……やば)
「なにしてんだよ! たっくん!」
そう叫ぶと、呪縛が解けたように体が動いた。僕は手のひらでたっくんの顎を掴んで、キスを阻んだ。たっくんが不満そうな声をあげる。
「だって、まーくんがいつでもキスしていいって」
「それ、無効だから!」
「えー! まーくんの嘘つき!」
たっくんはいつも通りだ。それが却ってすごく恥ずかしい。
僕は立ち上がるとたっくんを置いて先に帰ろうと山を降り始めた。
真っ暗で足元が見えない。けれど、それ以上に僕は狼狽していた。
(今、たっくんに、キスされたいって思った!)
背後で、僕を心配する声が聞こえる。
僕はそれを無視するしかなかった。
……こんな顔、誰にも見られたくない。
おそらく、たっくんはあっさりと僕に追いつくだろう。どうしたの、なにがあったのと心配そうに顔を覗き込んでくると分かってる。
それでも、僕は黙々と目の前の道を進むしかなかった。
たっくんにその手を掴まれるまで。
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