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第1話

 都心から少し外れた場所に、古ぼけた二階建ての研究所がある。周りに住宅はなく、代わりに鬱蒼とした林が建物全体を守るように取り囲んでいた。  その一室で、夢野博士(ゆめのはかせ)(本名『夢野正幸(ゆめのまさゆき)』)は、今日も怪しげな研究に没頭していた。 「よーし、これとこれを混ぜれば……」  やや興奮した仕草で、白い液体に黒い液体を投入する。丸いフラスコ内で液体同士が混ざり合い、次第に熱を帯びて七色に輝き始めた。 「キタキタキター! これでついに……!」  次の瞬間、ぼん、と小爆発が起こった。  フラスコの口から灰色の煙が立ち上り、夢野博士を覆いつくす。 「は、博士、大丈夫ですか?」  吉田直人(よしだなおと)は慌てて側にあった団扇を掴み、勢いよく扇いで灰色の煙を追い払った。  救出された博士は咳き込みながらも、今までにないほどの上機嫌で、 「おおおお、大成功ー! これぞ世紀の大発明!」  と、フラスコを頭上に掲げた。その中には、黄金に輝く謎の液体が入っていた。 (あー……これはまた、見るからに怪しげな薬だなあ……)  この博士がおかしな発明をするのはいつものことだ。 『着ると逆に涼しくなるコート』や『誰でもふわふわの卵焼きが作れるフライパン』など商品化できそうなものもあれば、『透明人間になれる薬』や『初めて見た相手を好きになるお香』など明らかに怪しげな発明品もある。どうやら今回は後者のようだった。  もっとも、どの発明品もそれなりに効果があるものだからあまり馬鹿にはできない。商品化したらエラいことになるものも多いから、そういうものは直人が「販売禁止令」を出して倉庫に封印している。やれやれ。  販売禁止になることを前提に、直人はテンプレート的な質問をしてやった。 「博士、今度は何を発明したんですか?」

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