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第2話
「おお、直人くん。見たまえ、この薬を! まさに今世紀最高傑作の発明品と言うにふさわしいだろう?」
「いや……最高傑作はいいんですけど、その薬は一体どういう効果が?」
「ふふん、知りたい? 知りたいだろう。いいとも、今から実験してみせてあげよう」
「ちょっとアレな効果だったら、実験しなくてもいいですが」
「アレってなんだい? もしや、また変なこと考えてるんじゃないだろうね? 直人くん、意外と変態だからなあ」
直人を変態呼ばわりした博士は、何の気なしに淹れたてのコーヒーをすすり、
「むむ? これはコーヒーか。今日は紅茶の気分だったのに」
と、子供じみた文句を言った。相変わらず気まぐれで面倒臭い博士だ。
「はいはい、すみませんね。じゃあ今から淹れ直して来ますよ」
「いや、ちょうどいい。これを実験に使おう」
夢野博士はコーヒーカップをデスクに置き、代わりにフラスコ内の薬を一口飲んだ。そして、顎に手を当てながら何かを考えている素振りをした。
ややあって、博士は直人にカップを差し出して言った。
「直人くん。ちょっとこれを飲んでみてくれるかい?」
「はあ。まあいいですけど……どうして?」
「飲んでみればわかるよ。ささ、ぐいっといっちゃってくれたまえ」
「は、はあ……」
怪しさ満点だったが、直人はやむを得ずカップに口をつけた。
「……あれっ?」
一口飲んで、直人は目を丸くした。念のためにもう一口飲んでみたのだが、明らかにコーヒーとは違う味がした。香りもコーヒーのものではない。よく見たら、色も黒から赤茶色に変わっている。
これは……この液体は、もしや……。
「これ、紅茶ですよね。博士、いつの間にすり替えたんですか?」
「おお、実験大成功! 薬の効果が証明できたぞー!」
夢野博士が手を打ちながら、でたらめに踊り始める。
わけがわからなくて、直人は重ねて言った。
「博士。でたらめ音頭は後でいいですから、どういうことか教えてください」
「ふふん、では教えてあげよう。さっきの薬を飲んでから『コーヒーが紅茶だったらいいのに』……と願った途端、その通りの現象が起こった。つまりあの薬は『願い事を叶えてくれる薬』なのだ!」
「……。……本当ですか?」
「なんだい、直人くん。私の発明を疑っているわけ?」
「だって……そんなとんでもない薬、どうやって作るんです?」
「説明してあげてもいいけど、きみには理解できないと思うよ。チョコレートとカシスとシナモンと……あとは、あんなものやこんなものを、混ぜて熱して丁寧にこして、それから……」
「……すいません。聞いた俺がバカでした」
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