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第3話

 夢野博士とは小学生の頃からの知り合いだが、直人は未だに彼の台詞の80%は理解できない。つき合い始めてもう15年になるのに、8割もの発言が意味不明というのも不思議な話だ。  できればもっとわかるようになりたいが、直人が把握しているのは博士の性格や好みくらいである。具体的な思考回路に関しては、一生かかっても理解できまい。そこがちょっとせつない。 「まあ……どうやって作ったかはともかく、それが本当ならすごい発明ですね。確かに『今世紀最高傑作』と言っても過言じゃありません」  気を取り直してそう言ったら、博士は大袈裟に威張ってみせた。 「ふふん、そうだろう、すごいだろう。直人くん、もっと褒めてくれていいよ」  直人はふと、博士の鼻が天狗よろしくぐんぐん伸びていく様を想像した。あの薬を飲んでいたらその通りになっただろうか。 「さて。それじゃあ、早速外に実験しに行こうか」 「はあ、外ですか。しかしフィールドワークなんかして一体何の意味が?」 「そんなこと決まっているじゃないか。被験者を捜しに行くんだよ」 「被験者? もしや博士、薬を飲んでくれる人を捜しに行くつもりですか?」 「そうだよ。何か問題でもあるのかい?」 「いえ、問題というか……こんな薬を飲んでくれる人なんているのかどうか」 「もちろん、いるさ。願い事が叶うんだよ?」 「いや、それはそうなのですが……」 「大丈夫。変な願い事をしそうな人には飲ませないからさ」  博士は細い試験管に虹色の薬を小分けにし、それを鞄に詰めて直人に押し付けた。 「さあ行こうか、直人くん。いい感じの被験者が見つかるといいね」 「はいはい……」  フリーダムな博士を止められるはずもなく、結局直人は、博士のフィールドワークに付き合うことになってしまった。

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