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第4話

 研究所を出て、歩いて近くの商店街に行ってみた。  そこにはたくさんの人がいた。買い物中の主婦、食べ歩きをしている学生、犬の散歩をしているおじいさん。  皆ごく普通の人ばかりで、直人は、そんなありふれた日常を微笑ましく思った。  その中で、唯一ありふれていないのは夢野博士本人だった。 (ああ、もう……これじゃ完全に不審者だって)  博士はお気に入りのオペラグラスを片手に、道行く人を観察している。『いい感じの被験者』とやらを物色しているのだろうが、こんなことをしておまわりさんに職務質問されやしないか心配になる。もし連行されてもかばってやらないぞ。 「被験者は、私みたいにピュアな心を持った子供がいいな。童心を忘れた大人や夢のないクソガキはダメだね。そう思わないかい、直人くん?」 「はいはい、そうですね……」  突っ込みどころが多すぎて反論する気にもならない。  だいたい、ピュアな心を持っているかどうかなんてどこで判断するんだろう。仮に条件通りの被験者が見つかったとしても、どうやって薬を飲ませるつもりなのか。常識的に考えて、見知らぬ青年に怪しい液体を渡されても誰も飲まないと思う。  とはいえ直人は、夢野博士に『常識』を身につけて欲しいとは思っていなかった。もし博士が常識を身につけてしまったら、発明に必要な発想力が衰えてしまう。  夢野博士は好きなものを好きなだけ発明し、直人は博士に振り回されながら発明品を世に出すべきか否かを判断する。なんだかんだで、このポジションがちょうどいいのかもしれない(『遠隔操作できる電子レンジ』や『絶対焦げ付かないフライパン』をプロデュースしたのは直人である。えっへん)。  だけど……。 (今回の薬は絶対世に出せませんからね、博士……)  そんなことを考えていたら、店の曲がり角を出たところで、急に飛び出して来た子供とぶつかってしまった。十二、三歳くらいの少年だった。大人しそう……というよりは、年齢相応の元気がなく、顔色もやや悪いように見えた。

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