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第5話
その少年はぶつかった反動で転倒し、持っていた買い物袋を勢いよく落としてしまった。
「ああ、申し訳ない。私のお世話係がボーッとしていたせいで」
直人が謝るより先に、夢野博士が少年に手を差し伸べた。
「あ……いえ、すみません……。こっちこそ急いでて前を見てなかったので……」
少年は急いで立ち上がると、買い物袋を拾い上げた。そして中を覗き込み「あっ」と短く声を上げた。
「おや? どうかしたのかな?」
「卵が……」
泣きそうな顔で少年が呟く。どうやら買ったばかりの卵が割れてしまったようだ。
それを見て、博士は大袈裟に怒ってみせた。
「直人くん、きみはなんてことをしてしまったんだ。これはきっちり弁償するべきだ。今すぐ新しいものを買ってくるべきだ」
「あ、はい……わかりました。じゃあ、ちょっとここで待っていてくれますか」
「いや、でも、あの……あまり時間がなくて……」
チラチラと少年が腕時計を見る。その目が少し怯えているようだった。遅くなると怒られてしまうのか、余程急いでいるらしい。
「おお、ピンと来た! こんな時こそ、私の薬の出番だ」
夢野博士は直人に預けていた鞄をひったくった。中をゴソゴソ漁りながら少年に言う。
「心配いらないよ。この天才発明家が割れた卵を綺麗に直してあげるからね」
「えっ? 直せるんですか?」
「もちろん。私に不可能はないんだから」
博士は例の薬が入った試験管を一本取り出し、少年に差し出した。
「これを飲んで『卵が元に戻りますように』ってお願いしてごらん。元通りになるから」
「……これを? でもそんな……」
「遠慮することはない。ささ、一気にぐいっと飲んでみてくれたまえ」
「…………」
怪訝な顔で黄金色の液体を見ている少年。
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