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第6話

(……まあ、これが常識的な反応だよね)  もし自分がこの少年だったら、こんな怪しげな薬は絶対に飲まないし、隙を見てこの場から逃げていたに違いない。  ところが、少年は試験管のキャップを外し、開き直ったかのように豪快に薬を飲み干してしまった。 (えー!? 飲んじゃったよ、この子!)  直人が衝撃を受けている側で、少年は小さく呟いた。 「卵が元に戻りますように」  それから彼は買い物袋に手を突っ込み、中から卵を取り出した。どの卵にもヒビひとつ入っていなかった。 「えええ!? すごいー!」  少年は純粋に驚き、目を輝かせて博士を見上げた。さっきまでの沈んだ顔が嘘のようだった。彼は博士に向かって礼を言った。 「ありがとうございます! 久しぶりに感動しました。どんな手品を使ったんですか?」 「手品じゃないよ。それはこの夢のような薬のおかげさ。ふはははー!」 「夢のような……?」 「ところで少年! きみはすごくピュアな心を持っているね! うちのラボメンになる気はないか……ぐえ!」  博士がいきなり少年に迫って行くので、直人は慌てて彼を止めた。『未成年に対する×××』とかで通報されたら大変だ。 「ごめんね。この通り常識のない人だから」 「あ、いえ、そんな……」 「それよりきみ、よくさっきの薬を飲んだね」 「えっ?」 「普通はこんな怪しいもの口にしないだろう? おかしいとは思わなかった?」  すると少年は、ちょっと視線を落としてこう言った。 「思いましたけど、この際、騙されてもいいやと思って……」 「どうして?」 「スーパー混んでて遅くなっちゃったし、卵も割れちゃったし……どうせ怒られるんだから、薬を飲んでも同じかなって」 「怒られるって、お母さんに?」 「いえ、父です。母はいないので……」  何かワケありの様子だった。珍しく、夢野博士も同じ感想を抱いたようだった。  ちょっと気になったので、直人と博士は少年を家まで送っていくことにした。

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