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第13話
純は慌てて顔を上げると、博士の後ろをついて歩いた。数歩進んだところで後ろを振り向き、父親を見つめた。その父親は、ニヤニヤしながら黄金の薬を眺めている。
「お父さん。お父さんは、本当はぼくのこと……」
「あぁん? なんつった?」
「……なんでもない。今までありがとう。……さようなら、お父さん」
呟くように言って、純は再び前を向いた。もう二度と振り向くことはなかった。
「…………」
だが、直人は少々複雑だった。純に聞こえないよう小声で博士に話しかける。
「……博士、本当にこれでよかったんですか?」
「ん? 何が?」
「例の薬ですよ。あの様子じゃ、あの父親、本当に『家の中にあるもの全てを金に変えてください』って願っちゃいますよ」
「そうだね。それがどうかした?」
「どうかしたって……」
「直人くん、私は願い事が叶う薬を渡しただけだよ。その人が何を願うかは本人の自由でしょ」
「いや、それはそうなんですけど……」
「いいじゃないか、本人が願ったことなら。きっと幸せになれるさ。ははは……」
そう笑った夢野博士の顔が、直人には少し恐ろしく見えた。
◆◆◆
その頃、父親は部屋を閉め切り、一人で妄想を膨らませていた。
「ぐふふ、これを飲めばオレは大金持ちだ。一生遊んで暮らせるぜ。そうだ、ベガスのカジノにでも行ってみるか。馬券を買い占めるってのも悪くねえな」
父親は黄金の液体を一気に飲み干した。
途端、家の中が一変した。父親が願った通り、床も壁も家具も家電も、全て本物の金になっていた。
だが、それを喜ぶ人はいなかった。まばゆい空間の中には、金以外のものは存在していなかった。
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