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第21話
side 譲
祖父が帰った。朔が意固地になったり、携帯もらったり、百合子さんが海外に飛ばされたって聞かされたり。
病み上がりなのに一気にいろんなこと考えさせられて、頭こわれそう。
朔に腕を引かれながらリビングに戻る。そういえば、今朝気づいたことだけど、リビングは元の状態に戻っていた。洗濯物も、ゴミも、食器も。
おれが寝てる間に、きっとなにもかも終わらせたんだなぁと思うと......本気で、なんでおれがいない間もそれができないんだろうと首を傾げた。
「ねぇ...百合子さん、海外に飛ばされたってなに?」
「ん?転勤ってことだよ。百合子さんが、じゃなくて、俺の上司がってことだけど。
親について行くなんて珍しいが、そこは榊田だからな、同伴しなきゃ日本に返さないぞとでも言ったんだろう。
どうせ帰って来れないから、逆恨みなんてされないし安心しろ」
へぇ、と頷いて見せたけど全然わかんなかった。
ソファーに座り直す。朔の隣に座ったのに、ひょいと持ち上げられて股の間に移行。ついでに朔が手をおれの腹の前で組んだ。
振り返って講義しようとしたら肩に顎を乗せられ...断念した。だって、その状態で横を向いたら、朔の、イケメンな顔が、真横にあって...無理!
「膝枕はダメらしいからな」
揶揄われてぷくーっと頬を膨らませる。その可愛くない頬を朔はつついて空気を抜かせる。そしたらまた膨らませて、遊ばれて。
「かわい...なにその行動」
笑っているのが分かるのは、体が揺れているから。振動が心地よくて目を閉じ微睡む。
帰って来れて、よかった。朔に会えて、よかった。もうここに帰って来れないと思ってたから、ここにいるのが不思議に感じてしまう。
朔が好き。傷だらけになっても、汚れても、朔は好きだと言ってくれる。そのことがどれだけおれを救ってくれてるんだろう。
ちょっとの間の遠距離恋愛だった。けどおれにとっては、何年も経ったんじゃないかってくらい、長かったんだ。多分、もう朔から離れられない。これだけ暖かくされたら、逃げることもできない。それは、怖いことかもしれない。
でも大丈夫、絶対に大丈夫。だって朔がそばに居てくれるから。
「朔...もっとぎゅーって抱きしめて?」
「...いいよ」
甘えん坊だと朔が笑うから、うん、甘やかして?もっといっぱい...って甘える。
「甘えん坊は、嫌い?」
「いや、好きだよ。大好き」
「よかった」
朔の顔に擦り寄る。.........ちくちく、する。
「ひげ…」
「剃ってなかったな、そういや」
手でじょりじょりしたヒゲを撫でる。おれもこんなふうになるのかなー.........なんか無理な気がしてきた。
「ねぇ朔、雪姫に電話していい?」
新しい携帯に腕を伸ばす。キーパッドを押して電話番号を入力していく。
「していい。電話した方が、安心出来るだろうから」
ぴ、と発信ボタンを押す。
「でなーい...」
10数コールかけてみたけど、出なかった。久しぶりに雪姫と話したかったのに。
耳から離した携帯を恨めしげに見る。
「仕方がないだろ?明日また電話すればいい」
「うん...」
「なぁ、譲」
優しい朔の声。好きだな、と同時におれって声フェチ?と疑う。
「これからは、「父さん」って呼んでくれるか?」
「.........え...」
なにか気に触ることでもしただろうか、怒らせただろうかと不安になる。さっきまで大丈夫とかおもってたくせに、急に不安になった。
「勘違いしてそうだから言うが...違うぞ?ただ単に、「父さん」呼びに萌えただけだ」
真顔で萌えたとか、笑うしかなくて。そんな朔が可愛いくて、大好き。
「父さん、好き...大好き〜」
「俺もだ」
暖かい。ずっと、こんな生活が続けばいいのにと、思っていた。
「父さん」呼びの意図に気付かずに――――。
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