120 / 121

第21話

side 譲 祖父が帰った。朔が意固地になったり、携帯もらったり、百合子さんが海外に飛ばされたって聞かされたり。 病み上がりなのに一気にいろんなこと考えさせられて、頭こわれそう。 朔に腕を引かれながらリビングに戻る。そういえば、今朝気づいたことだけど、リビングは元の状態に戻っていた。洗濯物も、ゴミも、食器も。 おれが寝てる間に、きっとなにもかも終わらせたんだなぁと思うと......本気で、なんでおれがいない間もそれができないんだろうと首を傾げた。 「ねぇ...百合子さん、海外に飛ばされたってなに?」 「ん?転勤ってことだよ。、じゃなくて、俺の上司がってことだけど。 親について行くなんて珍しいが、そこは榊田だからな、同伴しなきゃ日本に返さないぞとでも言ったんだろう。 どうせ帰って来れないから、逆恨みなんてされないし安心しろ」 へぇ、と頷いて見せたけど全然わかんなかった。 ソファーに座り直す。朔の隣に座ったのに、ひょいと持ち上げられて股の間に移行。ついでに朔が手をおれの腹の前で組んだ。 振り返って講義しようとしたら肩に顎を乗せられ...断念した。だって、その状態で横を向いたら、朔の、イケメンな顔が、真横にあって...無理! 「膝枕はダメらしいからな」 揶揄われてぷくーっと頬を膨らませる。その可愛くない頬を朔はつついて空気を抜かせる。そしたらまた膨らませて、遊ばれて。 「かわい...なにその行動」 笑っているのが分かるのは、体が揺れているから。振動が心地よくて目を閉じ微睡む。 帰って来れて、よかった。朔に会えて、よかった。もうここに帰って来れないと思ってたから、ここにいるのが不思議に感じてしまう。 朔が好き。傷だらけになっても、汚れても、朔は好きだと言ってくれる。そのことがどれだけおれを救ってくれてるんだろう。 ちょっとの間の遠距離恋愛だった。けどおれにとっては、何年も経ったんじゃないかってくらい、長かったんだ。多分、もう朔から離れられない。これだけ暖かくされたら、逃げることもできない。それは、怖いことかもしれない。 でも大丈夫、絶対に大丈夫。だって朔がそばに居てくれるから。 「朔...もっとぎゅーって抱きしめて?」 「...いいよ」 甘えん坊だと朔が笑うから、うん、甘やかして?もっといっぱい...って甘える。 「甘えん坊は、嫌い?」 「いや、好きだよ。大好き」 「よかった」 朔の顔に擦り寄る。.........ちくちく、する。 「ひげ…」 「剃ってなかったな、そういや」 手でじょりじょりしたヒゲを撫でる。おれもこんなふうになるのかなー.........なんか無理な気がしてきた。 「ねぇ朔、雪姫に電話していい?」 新しい携帯に腕を伸ばす。キーパッドを押して電話番号を入力していく。 「していい。電話した方が、安心出来るだろうから」 ぴ、と発信ボタンを押す。 「でなーい...」 10数コールかけてみたけど、出なかった。久しぶりに雪姫と話したかったのに。 耳から離した携帯を恨めしげに見る。 「仕方がないだろ?明日また電話すればいい」 「うん...」 「なぁ、譲」 優しい朔の声。好きだな、と同時におれって声フェチ?と疑う。 「これからは、「父さん」って呼んでくれるか?」 「.........え...」 なにか気に触ることでもしただろうか、怒らせただろうかと不安になる。さっきまで大丈夫とかおもってたくせに、急に不安になった。 「勘違いしてそうだから言うが...違うぞ?ただ単に、「父さん」呼びに萌えただけだ」 真顔で萌えたとか、笑うしかなくて。そんな朔が可愛いくて、大好き。 「父さん、好き...大好き〜」 「俺もだ」 暖かい。ずっと、こんな生活が続けばいいのにと、思っていた。 「父さん」呼びの意図に気付かずに――――。

ともだちにシェアしよう!