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第2話
「ねぇ、君は一人なの?」
昔の事は覚えてない。覚えていたくない。
「そっか。実は、僕も一人なんだ。だから--」
でも、これだけは。ちゃんと覚えてる。
あの日の事を。
「一緒にいかない?」
その言葉と、差し出された優しい温もりの手だけはハッキリと覚えていた。
***
「朝暉、どこまで行くんだ?」
「もうちょっとだよ!」
あの時と同じように、優しくて愛おしい手が、俺の手を握り引っ張っている。
山に登るとしか聞いていない俺は朝暉が何を企んでいるのか全く分からない。
不安を感じる俺を他所に、先導する本人はニコニコと楽しそうである。
「さぁ、着いたよ! 下を見てごらん」
「……うわぁ」
下は、満天の星空だった。
勿論そこは空でもなんでもないのだけれど、暖かな数多の灯火の光がまるで星のように輝いていた。見間違えてしまうほどに、美しかった。
山の下には多くの村がある。
今日は何か祭りでもあるのだろうか。
「朝暉、今日は何か祭りでもあるのか?」
「今日はお彼岸の最終日。だから、死者が迷わないように光の道をつくってあげてるんだ」
「……」
その話を聞き、もう一度灯火を目に焼き付ける。
さっきまでただ綺麗だと思っていた光が、その言葉を聞いて、少し虚しい気持ちにさせる。
死は抗えない運命。
人間である俺も、妖怪である朝暉も。
いつかは死ぬんだ。
俺は……いつ死ぬんだろう。
そう考えていると、ポンっと頭に手をのせられ、優しく撫でられた。
顔を上げると、朝暉が微笑んでいた。
「京、そんな顔しないで」
「……頭撫でんなよ、恥ずかしい」
頭に乗る手を振り払うと、朝暉は「え〜」と笑う。
「でも誰もいないし。それに、悲しい顔してる時にこうしたら、笑ってくれてたでしょ?」
「子供の時の話だろ……もう、俺は大人だ」
「僕にとっちゃ、京はいつまでも子供だよ」
「俺がいなきゃ、料理も洗濯もなにも出来ないくせに?」
「誰にだって得意不得意はあるよ」
「お前はあり過ぎ。荷物だって何も運べないじゃないか。そのせいで、いつのまにか筋肉つくし。ちょっとは自分で出来るようになれよ」
「いいんだよ。だって、京がいるもん」
その言葉は嬉しかった。
でも、本当に馬鹿だなとも思った。
俺は人間で、お前は妖怪で。
早く死ぬのは、きっと俺だから。
俺が死んだら、朝暉はどうやって生きていくのだろうか。
ちゃんと、笑ってくれるだろうか。
俺は……いつまで朝暉と一緒にいれるのだろうか。
「朝暉」
「なに?」
「愛してる」
いつもは出さない、少し甘ったるい声で囁いてみた。暗いけれど、朝暉はきょとんとした顔をしていた。
そんなに俺から愛を囁くのは珍しかったんだろうか。
すると彼は、ニッコリと満面の花を顔いっぱいに咲かせる。
「……。うん、僕も愛してるよ」
何度も言おう、何度も触れ合おう。
後悔のないように。
互いの存在を、価値を見出すために。
これからも、愛し合おう。
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