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第1話
冷たいコンクリートの壁に手をつきながら階段を上っていく。
一番上まで上って冷え切った重たい鉄製のドアを開ければ、ひゅーっと北風が頬を掠めて思わず目を閉じた。
目の前には煌びやかなネオン。僕の目に映る街の明かりは温かさの象徴のようだ。
僕は今から死のうと思う。
全てに疲れてしまった。この特殊な体質のせいで僕は普通の生活を送る事ができない。
僕に明るい未来など無いに等しいのだ。
小さい頃から人ならぬものが見えていた。それだけならば、きっとここまで追いつめられる事もなかっただろう。現に人には見えないものと遊んでいた僕を見ても、周りはただ独り言の多い子供としか思っていなかった。
でも僕にはそれだけでなく、ちょっとした予知能力のようなものまであって、近々死んでしまう人がわかってしまう。
しかし、死期がわかったとしても、何も変える事も助ける事も見ない振りもできない。
そんな無力な自分にも嫌気がさしていた。
幼い頃、
『あの人、もうすぐいなくなっちゃうね』
そんな事を言った三日後にその人は亡くなった。
只の一度ならば偶然だと思われた事でも、それが幾度と続けば周りは気味悪がっていく。
陰では、“悪魔の子”だの“呪われた子”と言われていた。
そして、“呪われた子に目を付けられると殺される”とも……。
田舎に住んでいたが故、噂はあっという間に広がり、両親は僕を外に出したがらなくなった。
人は匂いが変わる。生きている人と死んでいる人は匂いが違う。勿論、死に逝く人も。
ふわっと漂うほんのりと甘い形容し難いその香りは僕を悩ませた。
見えてしまうのも、感じてしまうのも自分のせいではないのに、両親ですら僕を忌まわしいものを見る
ような目で見ていたし、僕に居場所はどこにもない。
今までの半生を思い出しながら、唯一の友である幼なじみのシュウの事を考えていた。
周りから白い目で見られ、親すら僕の話に耳を傾けなかったのに、たった一人幼なじみのシュウだけは僕の事を受け入れてくれていた。
「人と違うなんてかっこいいじゃん! おれ、浩太 は特別な人間なんだと思う! だから気にする事なんてないよ!」
なんの取りえもない平凡な人間なのに、シュウだけはいつも僕を励ましてくれていた。
シュウの両親は地元の生まれではなかった。皆、自分の子供と僕を遊ばせるのを嫌がるのにシュウの両親はそういう事は気にしないようで、シュウはよく家に遊びに来ていた。
忙しいらしく会った事は無かったけど、シュウと過ごす時間だけは自分が自分でいられる気がした。
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