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第4話「悩みの始まり」

狼ボスから食べられずに済み、一息つけたのも一瞬で、今度は新たなものと出会ってしまった。 (あの殺気はただもんじゃねぇ…今度こそやばいかも…) 逃げたくても、パンツ一丁の俺は先ほど腰を打ったせいで立ち上がれず、お尻をついたまま後ろに少し下がることしかできなかった。 逃げようとする俺に気づいたのか、彼は剣を地面に起き、近づいてきた。 (おいおいおい、剣を置いたのはいいが、どーせ油断させといて俺を喰うつもりだろ…!!) 「くるなっ!!来ないでくれ!お願いだ!」 と必死に叫んだが、歩みを止めないまま俺の目の前まで来た。怖いのでおれは丸まった。 彼は俺に合わすようにかがみ、俺の頬優しく触れたかと思うと、グイッと俺の顔を前に向かせた。 彼は驚いた顔をしていたが、(俺、なんか変か?泣くぞ?) しかし俺は彼よりもっと酷く驚いていたはずだ。 なぜなら彼がイケメンだったからだ。 (こいつは絶対モテる…!俺の第六感がそう言ってる) こんなに容姿が整っている人を見たのは、覚えている中でも初めてだ。 猫っ毛で栗色の髪の毛に、どこか爽やかで綺麗な顔だちはまるで王子様のようだった。 「いや、王子様って、俺女子かよ!!」 「ん?王子様…?」 ははっと少し笑われた。声に出ていたようだ。 それにしても、笑うと人懐っこさがでて、なんだか見惚れてしまった。 「あなた様のお名前を聞いてもよろしいでしょうか?」 (ん?誰だ?あっ、忘れてた) 動けずにいた美少年が気づけば俺の隣に来ていた。目をトロンとさせて。 「そうだ、自己紹介してなかったね。俺の名前はシオン。怖がらせてごめんね?」 と猫っ毛の髪を揺らしながらにっこり笑った。 「シオン様ですね…素敵です…あっ僕の名前はボブです!」 (美少年、めっちゃ名前合ってないな…) とか思いつつ、いつもの俺なら2人のお似合いさに興奮しているはずなのだが、なぜか今は少し胸が痛んだ。 (俺、結構邪魔者よね…すぐ去った方がいいかな…?それなら服とご飯貰えねーかなー…) なんて考えていた時、シオンはボブの方を向き、 「えっと、君の名前、というか君には興味ないんだ…ごめんね?」 と予想外のことを言った。 少し理解が追いつかなかったのか、ボブは 「えっと…えっと…シ、シオン様?」 としどろもどろになっていた。 しかし、段々言われたことがわかったらしい、ボブは僕をすごい目で睨みつけた後、何処かに行ってしまった。 (んっと、俺は悪くなくねーか?) そんなことも気にせずシオンは再び俺に目を合わせて先ほどの質問の答えを待っているようだ。 そんな視線に耐えられず、すぐに 「利人。俺の名前は利人っていいます…助けてくださってほんとーに!感謝してます!」 と言い、深々お礼をした。 目の前にいたシオンはため息をついて立ち上がった。 俺はまだ自力で立つにはきつかったので、立ち上がるのを助けてもらおうと、シオンに声をかける。 「あ、あの〜…」 シオンは俺を見下ろした。俺は合わさった視線が何故か恥ずかしくなり、顔を下に傾けてしまった。 (うわーなんか凄い恥ずかしい!絶対顔赤い…) 「?」 頼むだけだ!がんばれ俺! 「あの、えっと、立ち上がるのを少し助けてくれませんかっ!」 と唇を震えさせながらだが、言うことができた。 (うっし、なんも恥ずかしいことなんてねー!) 心の中でガッツポーズを作る。 「…フッ」 (ん?なんか笑われた?) なんだ?と思い、上を向くと、シオンは俺の腕を掴み、上に引き上げた。 立つ準備をしていなかったので必然的にシオンの胸の中によろめく形となる。 「おっと、あぶね……あ、あの〜ありがとうございます〜…」 (ん?なんか力が強くて離れられないんだけど…) シオンは俺を抱きしめていた。 「…リヒトって本当馬鹿じゃない?」 (「馬鹿」?) シオンの言った言葉を頭の中で反復させる。 気づけばシオンの顔が目の前に来ていた。 フッと唇に息をかけられたかと思うと 「…ッ!?」 嘘だ嘘だ嘘だ!なんだってこんなイケメンが俺なんかにキスすんだよ!!! 「ふぁっ…ンンっ」 シオンのキスは甘噛みされるようにどんどん深くなっていく。 「…んんんっ!!」 ドンッとシオンの肩を叩く。 しかしシオンの体は離れない。 息をしようと口を開くと、唇と唇の間から舌がツルッと入ってきた。 「ふぅっぃぃ…」 頭がぼーっとしてきて何も考えられなくなってきた。 元から力の抜けていた足はガクガクし、腰は砕ける寸前である。 シオンが俺から唇を離したと同時に、俺も自分の意識を薄れさせて行った。 薄れる意識の中で見えたシオンの顔は…妖艶で不敵な笑みを浮かべていた。 (そちらが本当のシオン様でしたか…) 第4話 「悩みの始まり」fin.

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