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第8話
机に広げた問題集をぼんやりながめながら物思いにふける。
ウォータースライダーを三度滑り、かき氷を一緒に食べた。あの時みせたブルーハワイのシ ロップ色をした舌を思い出してしまい、ふ、と、表情が緩む。
勉強に集中できないほど、今日は楽しかった。
また、あの時、感じたドキドキを味わいたい。
「あ、そうだ。夏祭りがあったな……」
近くにある神社で毎年夏祭りが開催される。小学生の頃に親と一緒に行ったきりだ。
「誘ったら、一緒に来てくれるだろうか」
早速、明日にでも祭りに誘おう。
きっと笑顔で行くと言ってくれそうだな。そう思うと楽しみで仕方がない。
小学生の頃の遠足ですらこんなにワクワクした事がなく、楽しみすぎて眠れなかったと話すクラスメイト不思議に思ったが、今ならその気持ちが解りそうだ。
補習を終えて約束したふわふわなかき氷を食べに喫茶店へと向かう。
高貴は苺味、巧巳はマンゴーにした。本物のフルーツもトッピングされていて美味い。
互いのかき氷も味見し、巧巳は話そうと思っていた事を口にする。
「俺の地元で祭りがあるのだが、一緒にいかないか?」
「祭り! いいね、行こう」
思った通りの反応に、思わずニィと口角を上げる。
あと一つ、高貴としたいことがある。
「その時、浴衣を着ていきたいのだが」
高貴は巧巳を見つめたまま目を瞬かせた。驚いているのだろうか、それとも面倒だと思われたか。
だが、何故か顔を赤らめて自分の手で頬を包む。
「すごく似合いそう。良いと思うよ」
「そうか。高貴の分も家にある。それでよければ着ないか?」
「え、俺も? うん、着るっ。写真撮ろうな」
真っ赤に頬を染めて笑顔を向ける。それがやたらと可愛くて胸の奥が疼いた。
「あ、あぁ。そうだな」
子供や女性に対して思うのなら解るが、男でそれも友人に対して思う事ではない。
きっと口にしたら怒られるであろう言葉は飲み込んでかき氷を口に入れる。その冷たさが気持ちを落ち着かせてくれる。
「楽しみだな」
「あぁ」
祭りは補習の日程が終わった後にある。
お疲れ様も兼ねて楽しもうと言われて、ハッとなる。
そうだ、元々は補習に付き合う為の交換条件。楽しい時間はもうおしまいということだ。
楽しかった気分が一気に落ちていく。
高貴とは期間限定の友人でしか過ぎないのだから。
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