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第7話

 ○  最終日〈我妻椿〉  色とりどりの花が揺れている。俺はそれをベッドに腰かけながら眺めていて、その隣には獅子雄が寝転んでいた。肘をつき、気だるげで、少しいじけたような表情だ。視線が交わるとすぐに抱き寄せキスをして、そしてあらかじめ用意していたかのように完璧な微笑みを向ける。  夢を見たんだ、と獅子雄に告げる。どんな、と訊き返されて、いやな夢だよ、と答える。すると獅子雄は、そんな夢すぐに忘れる、と俺の顎をくすぐり額に唇をつけた。俺はそれに、素直に頷く。ずっと一緒だ、と獅子雄は小さく囁いた。  目が覚めると、隣で蛇岐が死んでいた。皮膚は温度をなくし、俺を抱き込んだ腕は重たくなってぴくりとも動かない。その死に顔に、ありがとう、と呟いた。獅子雄には会えたか、と訊いてみる。会えたんだろうな、そうじゃなきゃいけない。  もう、からだの隅々まですべて、少しのちからも入らない。今はただ眠気だけが酷くて、次に瞬きをすればそのまま眠ってしまうような気がした。  外は雪が降っていた。いい日だ、美しい日だ、と思う。そして目を閉じる。美しい景色が広がっていた。屋敷の庭に、獅子雄が立っている。見慣れた後ろ姿だ。俺の隣を歩く蛇岐が、おおい、とその背中に声を掛け、獅子雄はゆっくりと振り返る。俺は手を挙げて、獅子雄、と叫ぶ。大きな声で、はっきりと聞こえるように、し、し、お、と。獅子雄は微笑む。ばかだな、と。そんなに大きな声を出さなくても、椿の声はいつでも聞こえている、と。ばかだな、と俺も言う。聞こえなくなったら許さない、と。 雪は、静かに、降っていた。 〈終〉

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