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第1話 タバコが吸いたい帰り道
電車に乗って流れる景色をみていると、無性にタバコが吸いたくなる。
今日は大事な会議で使う書類の締切日なのに、それを担当していた後輩の竹山源(たけやまげん)が休んだので残業になってしまった。
そのせいで終電間際になってしまい、電車の中が混んでいて座れなかった。
――くそ!あいつ、終わらないからって休みやがったな。
竹山は悪いヤツではないが、どこか仕事にも人にもチャラく、逃げる癖がある。
その皺寄せが周りに行くことに気づいてるくせに気づいてないふりをしている。
人に迷惑かけるのは本当に困る。
「大変です!砂川さん!竹山熱出たそうです!」
今朝、竹山の同期である田中が大げさに走って俺に泣き付いてきた。
うん、その時にはなんとなくわかっていた。わかってましたよ、逃げやがったなってね。
それを終わらせられるのは直属の先輩である俺くらいだろ!ってことも。
金曜の終電間際、電車内にアルコールの臭いが溢れていた。
花金だもんね、そりゃあ飲みたいですよ!
目の前のスーツを着た50代くらいのオジサン達は
酒でも浴びてきたのか?と思うくらい臭かった。
仲良しおじさん4人組、一人は頭をぐらんぐらん揺らして寝ていた。
他の3人はろれつの回っていない話し方で陽気に話している。
ああ、タバコが吸いたい。
結局、最寄り駅まで座れなかった。
竹山への怒りと、座れなかった疲れ、そして酒のにおい。
俺は無性にタバコと酒が欲しくなった。
アパートまで最寄り駅から徒歩10分、早歩きをすれば7分。
いつもの帰り道と反対の飲み屋がちらほらある路地に向かって歩いた。
日中は汗ばむほどだったのに、流石に夜中になると風が痛いほど寒い。
――くそ、それもこれも竹山が休んだせいだ
「あータバコ吸いてー!酒飲みてー!」
電信柱に寄りかかって、ため息をつく。
「うち、全面喫煙可ですよ。」
急に背後から低く静かな声がしたので、身体がビクっと反応して電信柱に頭をぶつけてしまった。
「すいません、驚かしちゃって。大丈夫?」
声の主は、クスッと笑うと細く綺麗な指でタバコを美味しそうに吸っていた。
「大丈夫です。あの、ちなみにお店は何時までですか?」
「2時までですが、お兄さんかっこいいし、何時でもいいですよ」
「かっこよくはないけど、助かる!今日は飲みたい気分なんで」
そういうと、是非飲んでください!と笑いドアを開けてお店の中に入る。
背が高く細身だけど筋肉質、切れ長な目、端正な顔立ち、綺麗な指、これは女だけじゃなくて男にもモテるんじゃない?
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