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第2話 Bar moonlight

店はとても落ち着いた雰囲気だった。 薄暗く、狭いけど清潔な店内、さり気なく置かれた趣味の良い置物。 居心地の良さそうなカウンター 【Bar moonlight】は俺のお気に入りの店になった。 カウンターに座り、すぐにタバコに火をつける。 あんなにも吸いたかったタバコを深く深く吸い込み吐き出す。 ――うまい!タバコが身体にしみる!! メニューを見る前にタバコをゆっくり楽しんだ。 「うまそうに吸いますね」 「あ、すいません。電車の中から無性に吸いたかったんで」 「いいんですよ、存分に吸ってください」 またクスッと笑った。 店長はとても心地よい話し方をする人だった。 柔らかく、聞きやすい低音。 どこか近寄り難い雰囲気を持っている。 すごくクールな印象で少し怖そうだ。 「仕事帰りですか?」 怖そうだと思った矢先に声をかけられ、少し驚いた。 「そうです、遅くなっちゃいました。」 タバコの煙をふぅーっと吐き出しながら答える。 「ちょっとね、今日は疲れたので飲んで帰りたかったんです。」 店長の反応を待たずにタバコを灰皿に置き、メニューに目を落とした。 お酒の種類が豊富だった。 メニューまでオシャレ、そういや夕飯もまだ食べてない。 「飲んで帰りたくなる日有りますよね。」 メニューに食いついている俺の頭の上から声がする。 有りますよね、と適当に相槌を打ちながらドリンクを決めた。 「じゃあ、ジャックダニエルの水割りでお願いします。」 それと、と続けフードもすぐに出そうな物を中心に、3品頼んだ。 はい、と返事と同時にテキパキ動きすぐドリンクがきた。 無駄のない動きで料理を作っている店長をみながらまたタバコを吸う。 じっくりみてもいい男だ。 しばらくして頼んだ料理が目の前に置かれる。 「そんなにみられると、照れますよ」 「いや、店長見れば見るほどイケメンだから、いい酒のツマミになりますよ」 大げさに笑顔を作って言い、飲みたかった酒を飲んだ。 「蒼井です。」 「え?」 「蒼井響一(あおいきょういち)です、俺の名前。」 まさかの自己紹介に、驚いて視線を店長、いや蒼井に向けた。 どこかいらずらっ子のような顔をして笑っている。 ああ、俺この人には敵わない。 呆気にとられてる俺に向かって蒼井は続けた。 「最初から名前なら、次から違和感なく呼んでもらえるかなって。  俺、店長って呼ばれるの苦手なんで。」 「あ、ああそうですか。じゃあ蒼井さんで。」 「ありがとうございます。」 一番の笑顔を見せた蒼井は、恐ろしいほど可愛くきれいだった。

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