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第1話

俺は家族が欲しかった。血が繋がった本当の家族が。 2XXX年、現在男と女の割合は9対1となっている。段々と女の数が減っていき、少子高齢化は止まることがなかった。このまま人類は絶滅してしまうのか、と誰もが希望を失いかけた時、人類は進化をとげ、子宮を持った男が生まれることとなった。女より妊娠する可能性はかなり低いものの、現在、人口は回復しつつあった。 俺は男だが、子供を産める体であり、そのせいか、親には赤ちゃんの時に捨てられ、施設のみんなは大好きなものの、本当の家族の愛がわからないまま育った。 俺はずっと家族が欲しかったので、自分が子供を産める体だということを知った時、本当に嬉しかった。パートナーはいなくてもいい、自分の子供さえできたなら。 ずっとそう思っていたんだーーー ーーーー・・・ 「……と…まこと…?起きて、真琴」 優しく俺の名を呼ぶ声が聞こえる。 「…ん、起きてる、起きてますよー…」 半分寝ている状態で答えた俺をソイツは呆れたように笑った。 「もーこんなとこで寝てたら風邪引くよ?」 そう言って持ってきたブランケットを肩にかけてくれる。 「……この優男め」 こういう何気ない行動が様になるのも悔しいし、この行動に意味は無いのはわかっているものの、少し喜んでしまう自分がいることも嫌だった。 テーブルにうつ伏せになり半分閉じかけていた目を秋人にむける。 「?」 なに?と優しい眼差しでこちらに微笑みかける。 そういや、秋人に初めて話しかけられたときも、こんな笑顔だったな… なんて考えながら秋人との出会いを頭の中で思い出していた。 「橘秋人」コイツのことを俺は出会う前から知っていた。それには理由があって、 1つは大学でかなり有名だったからだ。 家は全国でもかなり有名な大病院を経営しているらしい。コイツはその病院の跡取りだと聞いた。 その上容姿が整っていて、すらっとした背は本当に羨ましい限りだ。こいつ以上に「才色兼備」という言葉が似合うやつはいないだろう。 2つ目は本の趣味が似ていたからだ。 なんでそんな事知ってるかって? 大学の図書館で本を借りるとき、(本の裏表紙についている)借りる人の名前欄に「橘秋人」という名前を見かけることが多かったのだ。 実は、2つ目の理由で気になっていたのは俺だけではなかったらしい。 秋人が話しかけてきた内容もそのことで。 2人とも気が合ったのか、すぐに仲良くなれた。 はぁ、考えてみれば結構前のことだな…なつかしい 思い出しながら再びうとうとしだす。 「おーーい、また寝ちゃった?どうしよう。今日も泊まる?」 「……ん」 …秋人とはもう普通の友だちという関係ではない。今ではもう体の関係も持っていた。俺は体の関係を持つのは秋人が初めてだったが、秋人はそうではないらしい。 今、秋人が俺の他に誰とこんな関係を持っているかは知らない。だが、こいつのことだ。どうせ選び放題だろう。 秋人に抱かれる時いつも馬鹿なことを考える。 ーーあぁ、秋人の子供が欲しい。 秋人がパートナーになる、そう言ってくれたらなんて幸せなんだろう。 でもそれは叶わない夢だということは、はっきりとわかっていた。 セックスの時、秋人はゴムをつけない。そのかわり終わった後に、必ず薬を飲まされる。秋人が言うには経口避妊薬(ピル)だそうだ。家が大病院なだけあって薬の効き目は抜群である。 「あきひとー…ベットまで行くのめんどいよ〜おんぶして〜…」 なんてふざけて言ってみた。 ソファに座っていた秋人は「ふーっ」と言いながら、立ち上がって俺の方に近づいてくる。 そして俺に視線を落とす。 「……」 なんだか無言の圧力を感じた。 「うそうそ、自分で行くに決まってるじゃん。冗談通じなかった?」 ハハッ…と笑って秋人から目をそらす。 秋人は座っている俺に合わせてゆっくりと体を曲げた。 なんか今日の秋人は少し違う。 「……」 目の前に秋人の顔がある。 いつも優しい表情してるから真顔になると変な感じだ。 少し長めのまつ毛が綺麗な瞳を際立たせる。不意にもドキッとしてしまい、近づく顔に、反射的に目を瞑った。 唇に温かい感触が広がり、包まれるように唇を奪われた。 「んっ…」 2人の間に妖しい吐息が漏れる。 唇と唇が触れるだけの軽いキスが段々深くなっていく。 「ふっ……はぁっ…ん」 角度を変えたときチュッと濡れた音が鳴り、それに合わせてサラッと瞼に秋人の線が細く柔らかい髪の毛が触れた。 「…ふぅ…っ」 そっと離れたとき、お互いの唇から銀の糸が伸びた。 頭を回る酸素が少なくなり、ぼーっと惚ける。 「ねぇ、真琴…真琴はきちんと薬飲んでる…?」 初め、秋人が何を言ったか少しわからなかったが、しかし考えるとすぐに理解できた。 え、俺ってそんなに信用ないの…? 秋人の言葉に傷つき涙が出そうになった。 そんなことはバレたくなかったので、秋人の肩を少し押しながら目をそらす。 「…っ大丈夫だ…。毎回お前に飲まされるじゃん。秋人の迷惑にならないようにしてるから心配するなって…」 「いや、迷惑とか…そういう意味で聞いたんじゃない」 じゃあどういうつもりだよ!! そう声を荒げそうになったが、喧嘩になりたくないので、このやりようのない気持ちを抑え込んだ。 「……」 「…本当にそういうつもりじゃない。でもごめん。変なこと聞いて…」 そう言って困ったように笑って俺を見た。 コイツは本当にずるい。一言が、少しの行動が、俺の心を揺らし弄ぶのだ。 「今日…は、もうしない…?」 俺の頬にかかる髪の毛をサラッと耳にかけながら、甘えたように聞いてくる。 しない、なんて言わないことなんかもうわかっているくせに。 「…する」 やった、と小さくガッツポーズをする秋人。 「ん!じゃあお姫様の気が変わらないうちにベットに行こうね」 「はっ、あほか…」 お互いに顔を見合わせ、笑った。 第1話 fin.

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