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第2話

やってしまった… なんで俺はあんなことを… 俺は3日前、自分のしたことを冷静になった今、後悔していた。 ーーー・・ 3日前の夜… 「ん、くすぐったい…頭くっつけてくんな」 「だってーまこちゃんいい匂いするし…」 いつものように秋人とセックス後を過ごしていた。 「ねぇ…」 秋人は俺を抱くように肩にあった手を腰の方に下ろす。俺はそれにぴくっと反応してしまった。 それに気づいた秋人はくすっと笑って俺の頬に口づけた。 「真琴…」 秋人はそう耳元で囁いた。 それがもうやけに色気のある声で、思わずゾクリと背筋を震わせた。 「ちょっ、今日はもうしないって!疲れたし」 右手で秋人の手を掴み腰から手を離させる。 秋人はえー?と妖艶な雰囲気を醸し出し、俺の体のラインを確かめるようにすーっとなぞる。 「…ッ、やめろって!」 秋人は離れようと頑張る俺を楽しむように押さえつけて耳にふっと息をかけた。 「んっ…ってこらっ!」 秋人に遊ばれて困っていたとき ブーブーブー… 秋人の携帯が鳴った。なんだってこんな時に… 今は出ない、と秋人は初め無視して続きをしようとしていたが、なかなか鳴り止まない携帯に痺れを切らし、 「もー…なに…」 と携帯をとった。 「え?」 珍しく少し驚いた様子の声が気になったのでふと視線を秋人に向けた。 「…きょうこさん?」 え、女…? 確かに秋人は女の人と思われる名前を言った。しかもあの表情…。明らかに秋人にとって何かしらの深い関わりがあるのだろう。 秋人は部屋を出て話をしていたので、内容はわからなかったが、話が終わり戻ってきた時には既に外出用の服に着替えていた。 「ごめん…用事が入った。少し出かけてくるね…」 秋人は名残惜しそうな顔をし、俺の瞼にチュッとキスをして出て言った。 「きょうこ…」 秋人の口から女の人の名前が出たのは初めてだった。 「きょうこ」という女の人は秋人とどんな関係なんだろう。もしかしたら、俺と同じようなセフレか?とか考えたりもしたが、あの感じから、「恋人」という単語がふと頭をよぎった。 あいつは恋人がいながら、俺とこんな関係を持つか?そんな男ではないと思うんだが…いや… モヤモヤとする胸に気持ち悪さを覚えた。 秋人の部屋に1人残されたが、不安を感じ、その日、渡された薬は飲まず、逃げるように秋人の部屋を出た。 ーーー・・ それから今に至る。 あの日から気まずさを覚え、秋人と会うことから逃げた。秋人の目から隠れた。 きっと秋人はこのことに気づいているだろう。 あー…秋人とこんな感じになりたかったんじゃないのに。 はぁ〜っとため息を漏らす。 わかっている。俺はかなり面倒くさいし、馬鹿だ。 俺はあの時、秋人と「きょうこ」という女の人の関係を想像し、嫉妬していただけではなく、 秋人の子を身籠ってしまえば… なんて浅ましい考えが頭をよぎり、薬を飲まなかった。 このことを秋人に知られたくない。 気持ちの整理がつくまで、会いたくない。 いや、実際は会いたい。会って不安を消したい。いつも通り秋人の温もりを感じたい。 2つの思いが俺の中をかき回す。 3日会わなかっただけでこんな感じじゃ、秋人にこの関係を終わらそうと持ちかけられたとき、俺はどうなるのだろう。 すっかり秋人に依存してしまっている自分を感じ、自嘲気味にはっと笑った。 「ごめんな…秋人…」 自己嫌悪に陥り、そう呟いた声と共に、俺の右手が誰かにとられた。 「…っ」 ーー秋人だ。俺は、「…久しぶり」と冷静なふりをするが秋人の姿を見た途端、心臓はドキドキしていた。本当に体は正直である。 「真琴、なんで急に……」 怒りと恐れが混ざった表情で俺の目を見つめる。 そんな顔初めて見た… 「まさか真琴、俺のこと嫌いになった…?一緒にいるのが嫌になった…?」 少し視線を落とす秋人の顔に胸が痛む。 そんなんだから俺が離れられないんだ、と心の中で秋人に八つ当たりする。 本当のことを言うのが怖い。「きょうこ」という人のことを聞いたら最後、全てをさらけ出しそうで。 知ってしまったら、秋人は俺との関係をすぐにやめ、こうやって俺を目に映すこともなくなるだろう。 嫌だ、絶対に嫌だ 秋人との関係が終わるなんて 「秋人…嫌いなわけないじゃん。大丈夫!少し1人になりたかっただけだから。あるだろ?そういう気分の時って」 秋人の目が揺れた。 多分これが嘘だってバレてる。 でもこれでいい。自分の気持ちを押し込め、事実さえ隠せれば秋人とは一緒にいられるのだ。 「…そっか…嫌われてないんだったら良かった。ずっと会いたかったから」 優しく、かなしそうに笑う表情に愛しさと罪悪感を抱いた。 すっと一歩踏み出し秋人の服をそっと掴む。少し驚く秋人を包むように抱きしめる。 「…ごめんな」 秋人とそう呟く俺の背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめた。 温もりに涙が出た。 ーーー・・ 第2話 fin.

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