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第7話 (R18)

 外へ出ると日が暮れており、雨が降り出していた。地下道が張り巡らされている大手町で濡れる心配はなかったがビルを出て横断歩道を渡る時、ふたりは濡れながら走った。  店舗の軒先を借りてスーツに降りかかった雨を落とした。 「濡れてしまいましたね」  契約をもぎ取りふたりは興奮状態にあった。楽しそうに佐月が笑うものだから、蒼哉は今、言わなくてはと思った。臆病な自分はこの瞬間を逃したら一生タイミングを見失ってしまう。 「佐月、本部長室に乗り込んできてくれて、ありがとう。嬉しかった」 もし佐月が来ていなかったら、蒼哉は今頃坂本といたかもしれない。あの時はそれでもいいと思ったけれど、坂本と一晩共にしていたと思うとぞっとした。  佐月から笑顔が消えた。 「違います。僕が欲しいのはそんな言葉じゃない」  蒼哉の頬を伝う雨を佐月がそっと拭う。その手を蒼哉は捕まえて、自分の頬に押し付けた。 「お前が好きだ」  激しさを増す雨音に蒼哉の告白はかき消された。  だが、唯一伝えたい相手の耳には届いたらしい。  てっきり笑顔で抱きしめられ、賞賛の嵐に巻き込まれるのかと思っていたが、佐月は無表情のままだった。 「今夜は帰しません」  と、恋愛ドラマのなかでしか聞いたことがなかったセリフを吐いた。  その後の佐月の素早さは尋常ではなかった。無駄のない動きでタクシーを止め、蒼哉を後部座席に放り込んだ。  連れて来られたのは、目黒区にある佐月の自宅マンションであった。蒼哉の激安アパートよりもご立派なデザイナーズマンションであった。  自宅に招き入れられ、部屋の中を物色する前に蒼哉は背中から佐月に抱きすくめられていた。 「さ、さつきっ……んん」  驚いて振り上げた手を捕えられてしまう。小さな抵抗はねじ伏せられ、蒼哉の薄い唇はあっけなく佐月に奪われた。口全体を吸われ、キスをされているのだと自覚した頃には何度も角度を変えて口付けされていた。だらしなく開けてしまった唇の間を佐月は見逃さず、口内に舌を侵入させる。 「っ、ふぅ……」  どう応えていいのかも分からず、蒼哉はされるがままだ。佐月は余裕がないのか性急であった。けれど佐月のしたいようにしてくれればいいと思った。触れ合った箇所から、確かに佐月の愛情を感じられたから。  突然、佐月が唇を離す。 「……っ、蒼哉さんすみません、これで蒼哉さんは僕のものだと思ったらつい、暴走してしまいました」  人とキスを交わすのは久しぶりで、蒼哉はふわふわした心地よさに我を忘れそうになっていた。 「僕は蒼哉さんのことが好きです。蒼哉さんを孕ませたいと思っています。蒼哉さんも、僕のことを……?」  キスまでしておいて、捨てられた子犬のように自信なさげに問う佐月を愛おしく思う。  返答のかわりに蒼哉は佐月の頬を引き寄せ、ちゅっと触れるだけのキスを返した。 「蒼哉さん、ああ……言葉になりません」  佐月は目元を潤ませると、蒼哉を抱き上げた。いわゆるお姫様だっこに蒼哉は動揺したが、誰も見ている者はいないのだ、佐月の首に手を回し彼を下から見上げた。佐月は蒼哉を寝室へと連れて行き、ベッドの上にそっと降ろした。ふわりと佐月の匂いが鼻を掠める。佐月が毎夜床にしているベッドなのだと思わされ、頬が熱くなった。 ネクタイを緩め、服を脱ぎ始める佐月を目の前にして、突然蒼哉の胸の内にざわつきが発生する。 「さ、さつき。ちょっと待って」 「待てません」  佐月はあっという間に生まれたままの姿になった。薄暗闇の中浮き上がる滑らかな円形の連なったトルソに同じ男でありながら蒼哉の鼓動は加速していく。  動けない蒼哉の衣服に佐月が手をかける。 「スーツが皺になったら大変ですよ」  そう言われたら袖から手を抜くしかなかった。二人分のスーツを佐月は椅子に引っかけた。きっと普段の佐月ならハンガーに通すに違いないが、そんなわずかな時間も惜しいのかもしれなかった。  シャツと下着一枚でベッドの上に転がされた蒼哉に佐月が覆いかぶさってくる。佐月の影が降りてきて焦った蒼哉は彼の胸を押し返した。 「まっ、待てって」 「好きです、蒼哉さん」  蒼哉は戸惑いを拭えずにいた。やんわりと佐月を抑止しようとするが、蒼哉に初めて触れて理性の箍が外れてしまったのか暴走し始めている。欲が差し込んだ瞳は燃ゆるように揺らめき奥底から佐月の雄としての一面が顔を出す。佐月に貞操を狙われていると感じ、蒼哉は震えた。この男に抱かれるのだという恐怖と、男に求められているという甘美な優越感。相反する感情の襲来に蒼哉は胸元の白シャツを握りしめる。 「外しますよ」  佐月はシャツを閉じたことが不服だったのか、蒼哉の手を払うとボタンに手をかけた。 そういえば地下駐車場でシャツのボタンを外させて欲しいと言われたっけ。あの時はこうして佐月とベッドの上にいる未来は予想すらしていなかった。 「んっ」  白く薄い胸を佐月に撫でられる。皮膚を介して肋骨まで佐月の指の感触が伝わってくる。中心で慎ましやかにしているピンクの突起をきゅっと摘ままれると、小さな快感が生まれた。指の間に挟まれて捏ねくり回されると卑猥なことをされているようで急激に恥ずかしくなった。 「ぁ、やっぁ、やだ」 「気持ちよくないですか」  気持ちいい。けれど気持ちいいと思ってしまう己が恥ずかしい。 「ひゃっ」  べろりと佐月が乳首を舐め上げる。蒼哉は身体を一瞬、硬直させた。 「授乳の準備をしたいですね」 「はっ?」  またも信じられない言葉を発した佐月に蒼哉は我に返った。思わず自分の乳を守ろうと腕で遮ろうとしたが、佐月に邪魔されてしまう。 「し、しない! しなくていい!」 「新生児が生まれたら一日十回ほど授乳、一歳になるまで続きますよ。まずはこうしてマッサージをして母乳の分泌を促進させます」  佐月は蒼哉のおっぱいの外側斜め下に両手を当てて、潰さないように上へ横へゆっくり動かす。  もちろん、蒼哉の胸はぺたんこだ。揉めるほどの膨らみはないし、母乳が出るわけがない。だが無意味な行為に取り組む佐月は本気であり、蒼哉を混乱させる。 「それから赤ん坊が乳首を咥えやすくなるように乳首をマッサージします」  親指、人差し指、中指で蒼哉の乳首を摘まみ徐々に力を入れて圧迫する。横方向に揉みずらされ伸ばされる。もげてしまうのではないかというほど乳首を引っ張られ、痛みが生じた。 「い、いたいっ佐月っ」 「蒼哉さんっ」 「あっ、あ――」  がぶりと左の乳首に噛付かれ、周りの皮膚ごと強く吸われた。  新生児はこんなに強く吸引するのだろうか。痛さゆえの怒りに蒼哉は握ったこぶしで佐月の頭を叩いた。 「ああ、すみません」  佐月が顔を上げると、蒼哉の乳首は無残に赤く腫れていた。 「可愛い蒼哉さんのザクロの粒が新生児専用になってしまうことを考えたら激しく嫉妬しました」  よもやなんとコメントを返せばいいのか分からず、蒼哉は頭を抱えた。 「……今のところはお前しか吸わないんだから、その、優しく吸ってくれ……」 「はいっ」  佐月は大層嬉しそうに笑うと、腫れた乳首を労わるようにちろちろ舐めながら、蒼哉の下半身にそっと触れる。 「っ!」  下着の上から若干硬くなり始めた性器を揉まれ、蒼哉は冷やりとした。  股間にぶら下がる性器は女性にはないものだ。直に触り佐月が正気に戻るのではないかと思い、蒼哉は恐怖した。蒼哉が女性ではないと気付き、突き放されるのではないか。  だが心配も露と消える。ペニスが揉みしだかれるとすぐさま勃起し、下着の中から飛び出る。佐月は迷わず手を添えて、上下に擦った。 「あっ……やんっ、ぅんん」 「可愛い、蒼哉さん」  亀頭を潰すように押し込まれると、射精したくてたまらなくなる。 「さつき、さつきっ」  熱に浮かされ、目の前の佐月に助けを求め両腕を首に回した。 「はやく蒼哉さんに種付けしたい」  佐月も熱い吐息を漏らし、苦しそうに眉根を曲げている。余裕がないのはお互い様のようで蒼哉は安堵した。  用意してあったのか佐月はどこからか調味料の容器のようなものを取りだし、中のどろりとした液体を自らの手のひらに出した。 「少し冷たいですよ」 「っんん」  ローションだろうか、ぬるぬるしたものが蒼哉のペニスから後ろの穴までを覆う。膝を身体に引き寄せるように曲げてしまい、佐月は隙を逃さず蒼哉の両足の間に大きな身体を滑り込ませる。熱した佐月の指が這い、ローションが冷たいと感じたのは一瞬だった。  蒼哉の腰をぐっと引き寄せ、後孔の窄みを佐月の指が突く。 「ぅあ、や、だ……」  お尻の穴を佐月に見られている。二十五年生きてきて、人様にそんなところをまじまじと見詰められるなんて、顔から火が出そうだ。 「あっ!」  佐月の長い指が挿入される。柔らかな肉壁が異物の侵入に拒否反応を示したが、佐月は埋め込むことをやめない。指と共にぐちょぐちょの液体も侵入してきて、蒼哉のなかは犯されていく。 「あ、ん、やあっ」 「ここで僕を受け入れて、僕の子を宿すんです」  途切れ途切れの喘ぎを漏らし、蒼哉は頭を振った。  苦しい。でも、我慢できないほどではない。耐えられるならば耐えて佐月を喜ばせてあげたい。  佐月が顔を近づけてきて、耳元に唇を寄せる。 「蒼哉さんのなか、熱くてきついですね。蠢いて、僕の指を誘い込む」  やらしい――  ぞくぞくした感覚が腰のあたりから頭のてっぺんまでを駆け抜けた。  理性が音を立てて崩れていく。このまま佐月に食われてしまいたい。官能的で肉欲に満ちた願望だった。  佐月が自身の勃起した雄に片手を添えて、抜いた指の代わりに蒼哉に宛がった。 「僕の子供を妊娠してください。一生、蒼哉さんと子供を大事にします」  ぐちゅりと佐月の亀頭を押し付けられ、欲に溺れそうになっていた蒼哉は我に返った。 「ま、待て! 佐月っダメだ」  佐月の胸を両手で突っぱねる。佐月は押しやられ後退し、目を見開き驚いていた。 「蒼哉さん?」 「俺、男だからお前の子供、妊娠してやれない」  佐月の思い描く未来を同じく願ったとしても、男である蒼哉は叶えてやることができない。日笠夫婦のような家族を持つことの幸福を佐月に与えてあげることができない。  佐月の表情が硬くなる。信じられないという顔だった。 「どうして……妊娠してくれるって、約束したじゃないですか」  蒼哉を責めているというよりは、独り言のように佐月は小さく呻いた。  もっと早く向き合うべきだった。ひとり妊娠に意気込む佐月を本気で拒めなかったのは蒼哉の落ち度だ。喉の奥から熱いものが込み上げてきて、蒼哉は眼球を潤ませた。溢れた涙は止まらなくなり、嗚咽を漏らす。 「ごめん……っ、できないことを約束してしまって、本当に悪かったと思ってる。お前を幸せにしてやれるのは俺じゃない。きっと、可愛くて気立てのよい佐月のことを愛してくれる人にこれから巡り合えるよ。お前の子供、妊娠してくれる女性がきっといる」  佐月に日笠のような父親になってもらいたかった。佐月ならば良き夫に、良き父になれるだろう。そんな佐月の姿を誰よりも見たいと思っているのは蒼哉だ。  佐月は動揺を隠せず唇を震わせる。 「他の男に妊娠させられて、僕を捨てるんですか。それとも他の女を妊娠させて僕の前から消えるんですか」  様子がおかしい。蒼哉は咄嗟に顔を上げるのと、佐月が乱暴に蒼哉の足を掴んだのは同時だった。 「ちがうっ、ちがう佐月」 「妊娠させないと。蒼哉さん僕を捨てないで」  佐月の心が悲鳴を上げている。苦しそうに滲む瞳が痛々しい。  蒼哉は自分が間違っていたことに気が付いた。  佐月は蒼哉の左脚を持ち上げ肩にかけ、無防備に晒されたそこへ腰を突き出した。 「あっ! ああああぁあっ!」  猛り立った雄が容赦なく串刺しにする。あまりの痛みと衝撃に蒼哉は佐月の肩口に爪を立てた。  落ち着かぬ内に佐月に揺さぶられ、蒼哉は口を半開きにして乱れた。 「あっあぅ、さつきっ、やめて……っ」  一方的なセックスはただの暴力でしかない。 「うっ……うぅっ、そうや、さん……蒼哉さんは優しくていじらしくて、うう……僕はそんな蒼哉さんに、心底惚れてて……っ、僕が人生を捨てようとした時、蒼哉さんは全身全霊で僕を引き止めてくれたっ! 成り行きだったとしても僕は本当に嬉しかった。ううぅっ、頬を上気させながら妊娠すると……約束してくれた蒼哉さんを忘れられない」  蒼哉を抱きながらぼろぼろと涙をこぼす。  好きな人を抱いているのに、抱かれているのに、こんなにもつらいなんて。 「蒼哉さんが好きです……彼女たちが僕を捨てた時、僕は彼女たちを取り戻そうとは思わなかった。でもっ……蒼哉さんは諦めきれないっ僕のものだ……誰にも渡したくない」 佐月は愛する人を他人に妊娠させられて奪われてきた。同じことが繰り返されるのではないかと怯えている。一度植え付けられたトラウマを新たに愛した人を妊娠させることで克服しようとしているようだった。  蒼哉の細腰を捕まえて、佐月は更に奥へと挿入してくる。 「あっ――深いぃっ……!」  蒼哉は喉元をしならせて戦慄いた。 「妊娠させられないなんて、僕はどうやって蒼哉さんを繋ぎとめたらいいんですか……?」 助けて―― 佐月の悲痛な叫びが繋がった場所から蒼哉の全身に潮騒のように広がっていく。 頭のいい佐月が、蒼哉が男であり妊娠できないことを理解していないはずがない。 蒼哉がするべきことは、妊娠できないから身を引くことではなかった。妊娠させなくては捨てられてしまう、愛する人と結ばれることはないという強迫観念に囚われている佐月の目を覚ましてやることだった。  蒼哉は襲い狂う痛みに負けないように奥歯を噛みしめると、泣きじゃくる佐月の両頬を捕まえ、噛付くようにキスをした。 「! っんん……――」  佐月は動きを止めたが、涙は止まらなかった。 「バカだな、お前。俺は佐月が好きだよ。子供ができなくたって、ずっと佐月と一緒にいたいと思っている……お前も、そう思ってくれているんだろ?」  額と額を合わせてから、蒼哉は佐月の涙をそっと舐めた。少ししょっぱかった。 「はいっ……僕が蒼哉さんを孕ますことができなくても、傍にいてくれますか……」 「うん……」 「僕を捨てないで」 「捨てられねーよ。それに俺は、誰かに妊娠させられることもないから横取りされる心配ないだろ」  信じているから、佐月にも信じて欲しい。  どちらからともなく口付けを交わす。妊娠しなくても愛し合うことはできるのだ。ようやく佐月を寂しがっている心ごと抱きしめてやることができた気がした。  彷徨う右手を佐月は指を絡ませて握ってくれた。  佐月が愛おしくて繋がったままのそこを無意識に締め付けてしまう。性器への刺激に佐月はぴくりと顔を引き攣らせたが、慈しみの笑顔をみせる。その顔に先ほどまでの悲壮感は微塵も感じられなかった。 「……痛くしてごめんなさい。ちゃんと、蒼哉さんを抱かせてください」  腰をぐっと引き寄せられ、密着度が上がると嫌でも不自然に盛り上がっている下腹に意識がいく。 「あっ……」  佐月がなかにいる。強引な貫通に先ほどは痛みを感じたが、時間が経ち少しばかり佐月に慣れたようだった。拒否反応を示すどころか、佐月に絡みつき呑み込もうとしている。佐月と繋がっているというこそばゆいような嬉しいような感覚に蒼哉の理性は溶けていく。  挿入の荒々しさから一変、佐月はゆっくりと動き始める。硬く張ったペニスにごりごりと抉られ、奥まで進むと引き抜かれを繰り返される。 「気持ちいいですか」 「んあぁ、あ……あっ、きもちぃ、っ……いん……っ」  痛みは麻痺し始め、かわりに佐月に動かれる度に快感が生じる。 「気持ちいいと妊娠しやすくなるんですよ」  突き上げられるとぐちゅんと卑猥な音がする。ありえないほど濡れそぼったそこは、佐月のためだけの性器に成り果てていた。 「ぐずぐずですね。濡れていると精子が奥まで届きやすいんです」  一番奥を押しつぶされて、そこから痺れるような性感に支配され、蒼哉は喘いだ。 「ああっ、やだぁ……そこっ、きもち、くて……やあぁ」  自分の意思に反して感じてしまう、乱れてしまう、恥ずかしくていやいやと首を振る。 「男に抱かれて善がっているなんて、蒼哉さん淫乱だったんですね。やらしいセックスばかりしていたら――蒼哉さん、妊娠できないのに、妊娠しちゃうんじゃないですか?」  佐月の意地悪な声音にぞくぞくする。  妊娠できるはずないのに……大好きな佐月にからかわれて、背徳的な悦楽に酔いしれてしまう。  先ほどまで言われるのが嫌だった妊娠という言葉が本当に妊娠しなくてもいいのだと認識した途端、蒼哉を興奮させるキーワードに成り代わっていた。 「くっ、限界です……中に出しますよッ、蒼哉さんを孕ませます!」 「ん、んっ、うんっ。いっぱいだしてっ、さつき。おれのことっ、はらませてぇ……!」  蒼哉は再び強い快楽のなかへと突き落とされた。佐月の肉棒に激しくピストンされる。蒼哉の蜜壷のヒダがめくれるほど腰を引かれたかと思うと、再び奥まで押し入られる。  いつの間にか蒼哉の花芯も勃ち上がり、愛液を滴らせていた。  佐月にぐちゃぐちゃにされたい。切なくて苦しくて嬉しくて、気持ちいい。 「ああ、っ、さつき……もう、イっちゃうっ!」 「んっはぁっ、いいですよ、僕もイきますよ、蒼哉さんのなかで」 「あああっ!」  身体中の五感すべてで、佐月を感じていた。  腹の中で佐月が爆ぜると、蒼哉もびゅくびゅくと射精していた。  瞼が下がるのを止められなくて、せめて佐月を抱きしめようと消えゆく意識のなか、精一杯手を伸ばした。  窓を叩く雨のメロディに蒼哉は起こされた。  身体がだるい。もぞもぞと起き上がると、下半身に痛みが走る。知らない白いシーツと枕に、自分の家ではないことを思い出す。 「おはようございます」  隣に寝そべっていた佐月が笑顔で挨拶をする。裸で横たわる佐月は神々しい色気を垂れ流していた。  驚いて蒼哉は寝起きの顔を隠すようにシーツを手繰り寄せた。 「身体は大丈夫ですか」 「う、うん」  節々痛みはあるが、ローションを垂らされ、さらに精液でべとべとであっただろう下半身は綺麗に拭き取られていた。佐月が拭いてくれたのだと思うと、また恥ずかしい。 「蒼哉さん」  佐月に腕を引っ張られ、ベッドの上に倒れ込む。 「んっ」  起きたばかりで乾ききった唇を吸われた。顎を上向かされ、何度も口付けをされる。  佐月が蒼哉を選んでくれたこと、お互いに傍にいていいのだと知り、甘酸っぱい気持ちで満たされる。  男である蒼哉は妊娠できないけれど、その分たくさんの愛を佐月に注ぎ込んであげよう。 「……好き」 「はい」  口付けに応えながら、蒼哉は震える声音で告白をした。 「蒼哉さんにプレゼントがあるんです」  佐月はサイドテーブルから長細い箱を取り出すと、蒼哉の手のひらに置いた。 「? 体温計?」  プレゼントというには色気のないものを渡されて首をひねる。 「基礎体温計です。起きてすぐに計らなくてはなりません。さ、今すぐ計測してください。毎日体温をチェックして、排卵日を予測しましょう」 「はっ? ええっ!」  先ほどまでの甘い雰囲気はどこへやら、佐月は本気の顔つきで呆然とする蒼哉から体温計を奪い、箱を開けると蒼哉の口のなかへ体温計をぶち込んだ。 「ぷぎゃっ」 「セックスの回数は多い方が妊娠の可能性を高められますから、僕としては二日に一度は蒼哉さんを抱きたいです。いっそここに住んでください」 「ひょっろはへ!」  蒼哉は体温計を吐き出して、佐月に突きつける。 「妊娠はしなくていいんじゃなかったのか! 諦めてくれたんじゃないのか?」  蒼哉の追及に、佐月は微塵も動揺せず爽やかに笑った。 「やだな、蒼哉さん。蒼哉さんと僕となら、きっとできます」  臍の辺りを佐月に愛おしそうに撫でられる。 「愛していますよ、蒼哉さん」  ぞぞぞ、と悪寒が走った。 佐月にとって生命繁殖の法則は愛があれば改変できてしまうものらしい。 なんてやつに見初められてしまったのだろう。  なんてやつを好きになってしまったのだろう。  雨の音が一層強くなった。季節はこれから梅雨に入る。  佐月と迎える今年の夏は子作りに励むことになると思うと、甘い疼きに襲われ蒼哉は嬉しそうな佐月の視線から逃れようとシーツを頭から被ったのだった。 ーー了

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