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第20話

幸せな時はそう長くは続かなかった。 タクミがこの里に来て数年の月日が流れた。 最近では床に伏せがちなのは仕方がないことなのだと分かってはいる。 人間であるお前にとって、この里での暮らしは命を削っていたに違いなかった。 だが「幸せ」だとタクミは言う。 俺の花嫁となりカムイ達と笑って過ごした。 そして、その時は刻々と迫っていた。 今日は天気も良く、気も晴れているからと起きて来たタクミ。 俺の花嫁となったその日から、変わる事のない姿に見えた。 だが、体は年相応に朽ちて行く。 「義一様、今日はいい天気ですね」 「大丈夫か?」 「ええ、大丈夫です」 僅かに頬を染めて俺に寄りかかり頷く。 とうに人の世界とは時間の流れが違うのだ。 だからタクミの体は既に歳を取り過ぎてしまった。 見た目にはわからぬが刻々と近づく死期は待ってはくれない。 「義一様、お願いがあります」 「なんだ」 「私の命が尽きたならば、カムイ達のいるあの森に私を返してもらえないでしょうか?」 「タクミ・・・」 「さすれば、また、義一様の元に帰ってこれましょう」 「タクミ・・・・」 「貴方は決して変わらない。 来世で会えるように・・・ 覚えていられるように・・・ また、私を探して下さいますか?」 消え入るような声で願うタクミの姿は美しく愛しかった。

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