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「また、おれに見せたい風景があるんだろ」 スピーカーの向こう、遠く離れた土地にいる彼に尋ねる。 「うん。君のことを考えながら描いてる」 小心者のくせに、よくもまあ、そんなセリフが簡単に出て行くものだ。誤魔化すように、おれは笑う。 絵を描く、ということは、彼にとって一種の愛情表現である。初めて置き去りにされた時は気づかなかったけれど、よく考えてみれば、彼は昔からおれに絵を描いてくれていた。 おれたちは小学校来の幼馴染で、高校まで同じ学校で過ごしてきた。想いを告げられたのは高校卒業の時で、なんとなくわかっていたおれは特に驚きもしなかった。 『僕が有名になったら結婚してください』 ただ、そんな爆弾発言とともに想いを告げられ、インパクトにあっけに取られたのはよく覚えている。 彼はもう既に画家への道だけを目指していて、その果てしない道の先に成功があるとは思ってなかったようだ。そのため、何年先も仕事に就いていなかったらおれにも迷惑だから、有名になるまで待ってほしいと言った。 男同士だとか、世間体だとか、何ひとつ考えていない言葉に、当時気にしていた人目がおれの視界からも消え去った。 彼は、本気で、おれとともに生きるつもりだ。それだけは理解できる。 離れ離れになったあと、彼は必ず一ヶ月に一度は絵葉書を送ってくれた。 げんきですか 会いたいです いつか一緒にこの風景を見ましょう 好きです そんな、短い文を添えて、絵が届く。 数年後、おれのところへ帰ってきた彼に、イエス以外の返事なんて思いつかなかった。 「つ、次は」 一緒に暮らす前のことを思い出して、柄にもなくじんときて、恋人の小さな声を聞き逃すところだった。おれははっとして言葉を待つ。 「次は、一緒に出かけよう。絶対」 「それ毎回言ってる」 「絶対だよ。約束する。次は、絶対」 必死さが、いつもより少しだけ強くて、おれは少しだけ期待する。 「絵を描いていると、君が恋しくなる。ほんとうだ。今も昔も君が恋しい」 焦がれているんだと、彼は言う。その想いが形になったとき、それがたまたま絵になるのだと。 彼はおれを愛している。それは自惚れとかではなくて、おれたちが息をするのと同じくらい当たり前のこと。 だから彼は、今日も絵を描くのだ。 「……本気にしてもいい?」 おれの期待はいつだって裏切られるけれど、彼の愛情は本物なのだから、悪いことではないはずだ。 「うん。僕が帰ったら、計画立てよう」 「今回は迎えに来なくてもいい?」 「やめて、それだけは……」 弱々しい声のくせに即答する彼が愛しい。おれは小さく笑って、薄くなり始めた飛行機雲をもう一度眺める。 「冗談だって。待っててあげる」 そう、待つのはおれの得意分野だから。多分それはきっと、おれなりの愛情表現なのかもしれない。 帰ってきたときの彼の顔を想像しながら、おれは愛してると言った。

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