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第286話
アルコールのにおいに充満された店内で、待ち合わせの相手はすぐに見付かった。
「あっ、長岡ー」
「悪い、遅れたか。」
「今が待ち合わせ時間だよ。
早く着いたから先に2人飲んでた。」
「正宗くーんっ、久しぶりぃ」
到着するや否や、ビールで良い?と聞かれ頷くと注文をしてくれるのでその隣に腰を下ろす。
目の前の酔っ払いは何時から飲んでたのか既に顔が真っ赤に染まっていた。
産休代理で3年を受け持つ事になったと夏に泣きそうな顔で相談を受けた時はどうなるかと思ったが、無事卒業式迄大役を勤め切った友人の慰労会を兼ねた飲み会。
長岡の分のビールが運ばれて来ると3人で改めて乾杯をした。
「かんぱーいっ」
「おう。
村上、お疲れ。」
「ありがとー。
今日の酒は美味いっ。
昨日は緊張で味なんてわからんかったわっ。」
昨夜は3年の教員全員で慰労会をしたらしいが、大事な時期にそれも代理で担任を受け持つ事になった村上は酒を楽しむ所の話ではなかったらしい。
その緊張が解けたのは私物もロッカーもなくなり、ガランとした教室を見た今朝だったそう。
アルコールも手伝って友人は饒舌だ。
「もうさ、式中やばいの。
口から心臓どころか胃が出るかと思った。
マジ気持ち悪りぃったらない。
吐くかと思った。」
「お疲れお疲れ。
今日は割り勘だからどんどん食え。」
「奢ってくれよ!」
隣で関川がにこにことにからあげを頬張っていた
大学からの悪友。
同じ職種の為か会っては仕事の事を話し、意見交換や相談をしていた。
だけどもなんだか学生時代に戻ったような空気が流れる。
3人ともその肩肘張らずにいられる空気が楽しくて集まっている所をあったが、誰もそれを言いはしない。
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