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第481話
この灼熱の中、申し訳程度の温い空気しか入ってこない教室で真摯な態度で補講を授ける生徒達を相手にしているとこちらまで背筋が伸びる。
…なんて言えたら良いのだが、正直暑さにだらけてしまいそうだ。
「この《たてまつり》は、尊敬の補助動詞《たてまつる》の連用形です。
動詞の直後に続く補助動詞法では《たてまつる》は必ず尊敬語になります。
これは試験で良く出題されるので覚えておいてください。」
その中にあの視線を感じる。
カツカツとチョークが黒板を叩きながら蝉の大合唱に負けないよう声を張り教室内を見渡すと、あの生徒は額に汗を浮かばせながらプリントを見ていた。
この気温の中、ネクタイを緩めることなくきっちりと締め上げている。
「ここまでで質問がある人はいませんか。
…大丈夫ですね。
次いきますよ。」
そういう自分もスーツを着ているのだが。
まぁ、これはオンオフの切り替えで自分の中のスイッチにもなっている。
この子達の制服と似たようなものか。
「このやりとりが何を意図したものなのか、その会話の目的を文全体から理解していきます。
例えば、文の後半から…」
こつっとチョークで黒板を示すと視線が集まる。
とにかく覚えて欲しい箇所はしつこい程に復習させ、確認の癖をつけさせたい。
ケアレスミスでの減点程惜しいものはない。
「また、パラグラフごとに大体で良いので要旨を掴んでおいてください。
そして、筆者の主張がどこに強く示されているかを押さえます。」
自分を見詰める真剣な目に長岡はひとつ咳払いをすると授業を再開した。
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