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第546話

「トイレ行ってくる。」 「んー。 じゃあ、俺コーラ。」 「俺いちご牛乳!」 「トイレだって。」 田上吉田はヒラヒラと手を振りながら苦笑を浮かべる三条を見送る。 球技大会1日目午前、A組の出番はなく殆どの生徒がわいわいと教室内で騒いでいた。 開会式の際、教師達は校内に居れば多少の事は目を瞑ると言っていたからゲームをしている生徒もいる。 勿論、勉強している生徒の姿もあるが。 階段を降り、玄関前の廊下を曲がる。 だむだむとボールが床をバウンドする音や、きゅきゅっと靴底が摩擦で磨り減る音が聞こえる体育館横を通り過ぎ4棟へと抜ける。 ひんやりとした空気が足元を撫でる廊下から足早にトイレへと駆けた。 いない、か… まぁ、トイレに来たかったのは本当だしな 小さく漏れた息に返事が返ってきた。 「悩み事なら相談にのりますよ。」 「っ!?」 振り返ると背の高い担任が立っていた。 「びっ、くりした…」 「ははっ、びくってしたな。 あ、マジでトイレだからちょっと待って。」 「俺も。」 「連れションか。」 並んで用を足すとは思わなかった。 なんか緊張する… 「…」 「三条達は午後からか?」 「あ、はい。」 「第二体育館?」 「はい。」 「何、緊張してんの?」 笑いを隠しきれない声に隣を一瞥すると、マジマジと見られていた。 教師と並んで用を足すのも、恋人と並んで用を足すのも違和感があると言うか… 居心地の悪さに出も切れも悪い。 先に用を済ませ終わった長岡が背後を通り抜け手洗いに向かう際小さな声が頭上から降ってきた。 「勝ったら今週の晩飯は鍋な。」

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