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第603話
きゃっきゃっと盛り上がる後方とは違い、静かに窓の外を眺める三条の髪が車体の揺れでふわりと揺れる。
ずって見ていても飽きない。
窓の外を眺めるフリをしながら横顔を堪能する。
「ぁ」
「あ?
あ…」
ホテルから少し走り出した所で三条の小さな声が聞こえた。
お世辞にも静かとは言えない車内だが、それでもしっかりと聴こえた耳に馴染んだ声。
三条の視線の先を辿るとその意味が解った。
最終日宿泊したホテルは豪華で見張らしも良い。
ただ、ホテル街の近くと言うのがネックだった。
確かに会議の際もその話はでた。
こういう機会でもなければ泊まる事はほとんとないだろうと、最終的には決定したが結局生徒達にはどうだったのだろうか。
いかにもといった暖簾。
隙間から見える駐車場。
天国はまだ良いが、学園はこの空間では痛い。
「…」
「…」
つい先刻セックスした恋人と隣同士で学園天国なんて名前のラブホテルを見るなんてなんの拷問だ。
しかも、今は教師と生徒の関係でだ。
いや、盛ったのは自分だが。
『まさ、むね…、さん』
恍惚とした表情を思いだし汗が首筋を伝
う。
その汗を拭う様に触れた首筋にちくりとした痛みが走り、更に色濃く思い出される情事。
『あの…噛んで、ほしいな、なんて』
トンッと三条の靴を弾くと弾かれた様にこちらを向いた。
これでもかと真っ赤にした顔に自分の鞄からペットボトルを差し出し、目だけで飲めと手渡すと大人しく口を付ける。
これで落ち着いてくれれば良いけど、空港まで生殺しにされそ…
コホンとひとつ咳払いをすると教師の仮面をしっかりと張り付けた。
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