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第606話
「ただいま。」
「おかえりーっ」
玄関を開けると腹に優登が突撃してきた。
そろそろ難しい時期だろうにその気配がまったくない弟の手厚い歓迎。
若干鳩尾が痛むがこれはこれで嬉しい。
あまりのタイミングに廊下で待っていたのかと思えば服も身体もあたたかい。
足音で出てきたのだろうか。
我が弟ながら可愛い。
やわらかい頬を揉むとだらーんと伸びた顔に笑いがでる。
嬉しそうな優登に引き連れられリビングに顔を出すと両親共に揃っていた。
「遥登、おかえり。
寒かったでしょ。」
「おかえり。」
「ただいま。
これ、父さんと母さんにお土産。
こっちは優登の分な。」
「ありがとう!
…うはっ、だっせーっ!!」
早々に鞄から取り出した土産を手渡すと弟はこれでもかと喜ぶ。
自分もブラコンと言われればそうなのだろう。
自覚がない訳でもない。
年の離れた弟は可愛いく、この反応が見たくて買ってる自分もいる。
ばさりと広げられたのは背中に次男と印刷されたTシャツ。
ダサいと言う優登はにこにこと嬉しそうだ。
「楽しかった?」
「うん。
楽しかった。
向こうずっと晴れてて、こっち帰ってきて雪降ってて驚いたよ。」
優登によく似た顔で母さんも父さんもにこにこと話を聞いてくれる。
旅中、写真を送ってはいたが土産話が聞きたいのかシャツを持ったまま優登も話に加わった。
「あのダチョウのたまご食べた?」
「食べてないよ。
あれで目玉焼き作ったらでかいんだろうな。」
民泊体験中訪れた道の駅で大きなたまごが売られていた。
あのたまごを使ったら、フライパンいっぱいの目玉焼きが出来そうだ。
恋人の焼く半熟とろとろのそれを思い出し腹の虫が騒ぎ始める。
「お腹空いたね。
遥登の分のご飯あるよ。
食べる?」
「うん。
食べる。
あ、いいよ、自分でやる。」
味噌汁を暖め直し、いそいそとご飯を盛ると久しぶりの母の味を頬張った。
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