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第662話

「……腹、痛い…」 腹の痛みで目を覚ます。 のそりと起き上がるとベッドヘッドに背中を預け文庫本を読んでいた長岡が顔を覗き込んできた。 綺麗な目に顔色の悪い自分が映る。 力なく笑顔を向けると自分の羽織っていたパーカーをかけてくれた。 きゅるると腸が捻れる。 「すみません…トイレ借ります、」 原因は解っている。 精液が腸を刺激して腹痛を起こしているだけだ。 三条はあまり精液で腹を下す方ではないが、今日はきゅるきゅると痛む。 出すものを出せば楽になると三条はよろよろとトイレに向かった。 なんの装飾もないトイレ。 部屋もそうだが、最低限の家具に本が大量に置かれているだけでインテリアという様な物は数える位しかない。 トイレだって足元に消臭ポットと掃除用ウエットティッシュがあるだけ。 それでも、痒いところに手が届くのが長岡の部屋の凄いところだ。 必要最低限のものは揃えられ、その場になくても大きく部屋を見た時に見付かる。 キ"ュルル 腹を押さえ前に屈むと首元で首輪が音をたてた。 そうだ忘れてた… あ、リードは外れてるんだ まるで首に馴染んだかの様に当たり前にそこにある首輪。 グルルル… ぅ"… 腹痛い… 腹の痛みが収まるまで暫くトイレに籠っていると脱衣場の方から声がした。 「遥登、服とタオル置いておくから風呂も入りな。 腹あったまれば少しは楽になるだろ。」 「あ、ありがとうございます。 あの…」 「どうした? まだ痛むか。」 ドアの前で足音が止まった。 よくよく考えればトイレの中から話し掛けるなんて恥ずかしい。 しかも下してると言うのに。 でも、声をかけた以上やっぱり良いなんて言えば長岡が気持ち悪いか。 三条は少しの間を置いて口を開いた。 「…一緒に、入りませんか」

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