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第663話

湯船に脚を入れると波紋が広がる。 大の男、それも痩せてると言っても背丈の高い2人が一緒に入るには湯が多すぎた。 どんどん流れていく湯に少しの罪悪感を感じながらも肩まで浸かると幸福感が身を包む。 思わず、くあーっと腹の底から声が漏れた。 「腹は大丈夫か。」 「…はい、平気です。」 「自分から誘っといて照れてんのか。 大胆なお誘い、すげぇ嬉しかったんだけど。」 同じ方向を向きながら長岡は長い脚を折り曲げて嬉しそうにしている。 窮屈そうに見えるが、三条も本当は嬉しい。 こういう時言葉を口にするのが苦手で犬の様に尻尾で感情を現す事が出来たらしっかりと自分の気持ちを伝えられるかと三条は心配するが、長岡から見た三条はわかりやすく、今だって緊張の中にやわらかい空気が混じり三条が嫌がってないと解っていてからかっている。 「遥登、肩冷えてねぇ? 寄っ掛かって良いからな。」 「ありがとうございます。 でも、あったかいですよ。」 首輪の外された首は軽いが少し違和感が残る。 未だ首輪があるような不思議な違和感。 そっと首を触るとやっぱりそこにはなにもない。 「少し擦れちまったな。 傷っつぅか。 痛くねぇか。」 「全然痛くないです。 言われるまで傷があるの気が付きませんでした。 目立つ所ですか?」 「いや、襟んとこだから隠れるよ。」 此処な、とつつかれた首の後ろは自分からは見えないし触るも痛くもなんともない。 後ろから見下ろす長岡を見上げると狭い湯船の中で更に身を屈めキスしてきた。 長岡の髪から滴る雫が三条に落ちる。 「舐めてやろうか。」 「…ぇ」 自分の脚の間で硬くなる身体に長岡は楽しそうに笑った。 肩を抱き自分の胸に抱き寄せると三条は身動ぎお湯が揺れる。 しっとりと濡れた髪に手を伸ばし、撫でながら髪にもキスをした。 「…ッ」 「嘘、嘘。 冗談。 良い反応するからついな。」 見開かれた目に下がった繭。 …やべ、調子に乗り過ぎたか? あやすように三条を抱き締めるとふいっと視線を外された。 「悪かったって。 しっかりあったまったらおやつ食おうな。」 「食べ物で釣られませんよ…」 「遥登の御持たせのどら焼き食べようと思ったんだけどなぁ。 風呂上がりだから冷たい麦茶にしようかなぁ。 俺1人で食うの寂しいなぁ。」 「…………一緒に…食べ、ます」 鎖骨に額を押し当てぐりぐりと攻撃をはじめた三条に良かったと安堵の息を吐いた。

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