698 / 1273
第698話
窓の外はとっぷりと暮れ、時計は完全下校の時間を指していた。
どれだけ話してしたのか身体だけはあたたまってきたがもう時間切れだ。
「話過ぎたな。
電車あるか?
待つならここで待ってて大丈夫だからな。」
「えっと、あ、大丈夫です。
10分後のあります。」
スマホで時間を確認すると丁度良いのがあった。
学校と駅の距離なら5分前に出ても間に合う。
長岡からもらったファイルを鞄にしまいながら帰り支度を整える。
すっきりした
正直に話せて良かった
ずっと心に秘めていた思いをはじめて露吐しすっきりしたと同時に尊敬する人に背中を押してもらえた。
それがとれだけ自分にとって大きかったか。
自分の中で大きくなる思いは同時に恐怖もあった。
失う位なら自分の手でその火を消したい。
けれど、消す勇気なんてなかった。
弱い自分と向き合う事から逃げてばかりいたんだ。
長岡の時も同じ。
向き合う事から逃げて答えの出せない事ばかりを悩む悪い癖。
どうしようか迷いに迷ってやっと言葉にして、三条の中にはもう迷いはなくなっていた。
じっと自分を見詰める長岡に小首を傾げると、やわらかな顔で頷かれる。
言葉がなくてもなんとなく解る。
大丈夫だ。
「ありがとうございました。」
ぽんと頭に手を置かれ、見上げれば恋人とも担任ともとれる顔で自分を見ている長岡と目が合う。
担任よりやわらかいが恋人とは違う。
思わず好きだと口に出してしまいそうなのを飲み込むと、それがわかった様に笑われてしまった。
「三条、また明日な。」
「はい。
また、明日。」
ともだちにシェアしよう!