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第803話

地元駅から自宅に向かう帰り道、彼方此方の家から夕飯のにおいがした。 味噌汁のにおい。 魚を焼くにおい。 腹が減ったと帰路を歩く足が早くなる。 玄関前から漂うカレーのにおい。 頭の片隅に思い出されるとろりととろけるあの笑顔。 思わず口の端が上がってしまう。 玄関ドアを開くとそれは更に強くなる。 「ただいま。」 「あ、兄ちゃんおかえりー。 カレー作ったから勉強してて良いよ。」 リビングでドリルをしていた弟は兄の帰宅に顔を上げた。 ソファーに鞄とジャケットを置くと手洗いをしに台所へと向かう。 手を洗いながらコンロの上の鍋の中を覗くといっぱいに作られたカレーにぐーっと腹の虫が鳴いた。 「うまそー。 あ、サラダもある。 優登すごいな。」 嬉しそうな顔で満足げに笑う弟は、食事のバリエーションも増えてきた。 今までは一緒にしていた食事の仕度も、もう1人でこなせる。 テスト期間中はなるべく兄に勉強していて大丈夫だと頑張ってくれた事が嬉しい。 「頼もしいな。」 「へへっ。 兄ちゃんに似たんだよ。」 更に嬉しくなる事を言われ、胸が一杯になった。 頼もしい弟の頭をわしゃわしゃと撫でると、弟はにやりと笑う。 「テスト終わったら、兄ちゃんの生姜焼き食いたい。 それから、ゲーム!」 「わかった。 約束。」 「約束な!」 やった!と喜びながらリビングに戻る弟の後ろを歩きながら、嬉しそうな頭を眺めた。

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