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第918話
「未知子ちゃん、おはよう。」
「あ、三条くん、田上くん、おはよう。
田上くん焼けたね。
三条くんは相変わらず。」
「はよう。
未知子ちゃんも日焼けしてないね。」
「焼けたんだよ。
ほら、見て。
油断したー。」
ほら、と半袖からから覗く腕を見るとうっすら焼けていた。
そんな変わらないと思うが本人は気にしている様だ。
コンプレックスは人それぞれ、日焼けしにくいだのしやすいだの思った様にはならない。
ある種の贅沢だ。
靴を履き替え教室へと向かっていると、ついさっき迄一緒にいた頭部が人混みを掻き分け此方に向かってくる。
生徒達より頭1つ分飛び出た人に未知子ちゃんは元気に挨拶をした。
「あ、長岡先生。
おはようございます!」
「おはようございます。
小出さんは朝から元気ですね。
三条、田上もおはよう。」
「おはようございます。」
「はよーす。
先生も焼けてないっすね。
彼女とデートとかしなかったんすか。」
ドキッとする発言に三条はゆっくりと担任を見る。
田上も未知子ちゃんも興味深そうに見ているお陰で怪しまれはしてないが、気が気じゃない。
「プライベートは秘密です。」
「その言い方、やらしいっすよ。」
担任の何時も通りの台詞。
当たり前だ。
此処は学校で、職場で、相手は生徒。
あの担任が真面目に答えるはすがない。
だけど、クツクツ笑う田上に心臓が痛い程早鐘を打つ。
汗が背中を伝い、臀裂を伝っていく感覚にぞくりとしてしまう。
学校、それも友人の前だと言うのにすっかり調教された身体はそれを快感だと脳に信号を送ってしまっていた。
「高校生が何言ってんだよ。
そういうのは卒業してから。
な、三条。」
「え…、あー、そうですね…。」
「先生だって覚えあるでしょ。」
「さぁな?」
2階までの階段を昇りきれば、分かれ道迄はあっという間。
教室へと左に曲がる友人達と、準備室へ行く為右に曲がる担任。
踊り場を曲がってから振り返ると、同じ様に振り返った担任が流し目を寄越した。
ぞくりとするあの目。
思い出す情事。
三条は一瞬、とろんとしてしまう目で見詰め返すとすぐに頭を下げて友人の背中を追った。
朝からけたたましく鳴く蝉や生徒の声に紛れ、心臓がドッドッと世話しなく鼓動を打つ。
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