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第920話
空の色はすっかり秋だが、まだ暑い日は続いていた。
それでも、朝晩の涼しさや時折感じる秋の気配に夏の終わりを肌で感じる。
秋と言えば受験に加えテストや文化祭もある。
長岡は丁度テストや対策プリントの制作で残業続き。
それに加え推薦選抜の諸々と忙しそうだ。
長岡も三条も今まで以上に2人で過ごせる時間を大切にしていた。
「テストはじまるな。」
「先生忙しそうですね。」
「まぁな。」
広くはないベランダの燦に並んで腰掛けながらアイスを食べ、言笑をする。
ベランダ用のサンダルを借りた三条は脚を伸ばした。
温い風にアイスは溶けるのも早い。
「でも、癒しもいるし大丈夫。」
頭を撫でる気持ちの良い手に、三条の口角は上がる。
「お手軽ですね。」
「贅沢だろ。」
くすくす笑い合っていると2人の間を強風が吹き抜けた。
髪を掻き乱され呆気にとられる三条はぽかんとし、目をぱちくりとさせる。
「びっくりした…」
「すごかったな…あ"」
「あ?
…あ、」
振り返ると室内は長岡が授業用資料に集めた印刷物があちらこちらに散らばっていた。
あー、と隣から長い溜め息が聞こえ襟首の髪を掻いていた。
ちょっと持っててくれとアイスを手渡すと長岡は背中を丸めて資料を集めだす。
「マジかよ…。
あー、順番バラバラじゃねぇか。」
台所スペース迄滑り込んだプリントと取りに行くその哀愁漂う後ろ姿に三条はくすくすと声を洩らした。
「アイス溶けちゃいますよ。」
「俺のも食って良いよ。
くそ、なんでファイルに挟んどいたのに飛ぶんだ。」
「いただきますっ」
溶けそうな棒の近くを舐め、ちゅっと吸う。
半分こして食べるアイスは今日も美味しい。
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