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第921話
クシュンッ
9月に入り一気に秋の気温に下がったせいか、身体がついていかず鼻風邪をひいたらしい。
向かいの席でテスト対策のプリントを解いている田上は顔を上げ、心配げに見詰めてきた。
「三条、大丈夫か?」
「うん。
大丈夫。
でも、移んないでな。」
放課後になり雨がぱら付き始めた。
そのせいか気温はぐっと下がり換気と窓が開けられているせいもあって冷える。
「なぁ、窓閉めても良いか?」
「良いよ。
ついでに廊下も閉めて。」
「へいへい。」
捲し上げた袖を下ろしていると、田上はクラスメイトに声をかけ窓を閉めてくれた。
友達の自分が言うのもなんだが、田上は気遣いも出来て男前だと思う。
彼女が欲しい彼女が欲しいと口で言ってはいるが、だからといって友達を蔑ろにするタイプでもなくむしろ情にあつい。
田上本人に話すと上の兄弟に仕込まれたと言うが、それでも、その気遣いは人の事を思っての事だ。
格好良いし尊敬する。
「田上。
廊下は俺が閉めてくる。」
「おう。
さんきゅ。」
明かりのない廊下はいっそうひんやりとした印象だ。
窓の外ではしとしととコンクリートが濡れていたり
見上げた空はすっかり帳が下りて、紫が混じる。
あの日見た色はめっきり見なくなった。
廊下の奥の部屋から廊下に光が溢れている。
担任は、奥の明かりの中にいるのだろうか。
自分を呼ぶ友人の声に、三条は教室へと戻った。
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