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第1088話
身重の母親を気遣い、家の掃除や正月の準備をすると遥登から連絡がきた。
今日は会えない。
それなら自分も少し掃除をするかと重い腰を上げた。
ギチギチに詰まった本棚から本を全て抜き取り、掃除用ウエットティッシュで拭いていく。
遥登から、春に家族が増えると聴いた時はそりゃ驚いた。
来年度という事は三条との年齢差はほぼ19歳。
親子でも有り得る歳の差だ。
T.S.オリエットの言葉を使うなら、春は残酷なだけではない。
別れだけでなく、新しい出会いもある。
雪が溶け、地面から芽を息吹かせ“次”がはじまる。
出会いがあるから残酷な別れがある。
だとしても、春は待ち遠しい。
雪国の人間ならみな思う。
あの子の名前に似た季節を恋しいと。
A組の大多数も今はじっと地面の中で頑張る。
そして、満開の花が咲け。
咲き誇れ。
それが、待ち遠しい。
何時もなら丸く拭く角までしっかりと拭き上げ、本を戻していく。
それから、シンクを磨いてトイレを磨いて。
まだやる事は沢山ある。
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