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第1話

昼休み、写真部部室。 俺は、とある物を回収しに来ていた。 「よかった……まだ誰にも見られてない」 現像した写真や校内新聞、歴代のアルバムなどが置かれた机の上に、俺の探し物はあった。 先日サッカー部の試合に行って撮ってきた写真だ。 すでに現像してあるそれは、プレー中のものからベンチの様子を撮ったものなど、ざっと70枚はある。 一見何もおかしいところはない写真なのだが、 「さすがにこれ見られたらまずいよなぁ……」 束になった写真の最後の数枚、そこには、一人の生徒が写っていた。 高橋侑。サッカー部2年のエースで、俺の好きな人。 侑とは高1のときから同じクラスで、席が近かった分何かと一緒にいることが多かった。 侑は平凡な俺にも明るく接してくれて、俺は気付いたら侑のことが好きになっていた。 もちろん、その気持ちを伝えるつもりはない。 男子校とは言え、侑が俺に向ける感情は友情でしかないと分かっているし、何より、気持ちを告げて侑に拒絶されるのが、たまらなく怖いのだ。 でも、好きなことに変わりはなくて。 先日試合を見に行ったときに、つい魔が差して侑の写真ばかり撮ってしまったのだ。 一応部の仕事で撮っているから罪悪感もあったのだが、後で侑の写真だけ抜き取ればいいか、と開き直った。 しかし、あろうことか現像した後に侑の写真を回収するのを忘れてしまったのだ。 「俺の馬鹿……!」 己の無用心さに呆れてしまうが、とにかく誰にも見られていないようなので一安心である。 侑の写真だけを持って、俺はそそくさと部室を後にした。 昼休みに練習するのなんて吹奏楽部くらいだから、文化部の部室棟に人の気配はない。 それに、写真なんてたいして大きくもないから、誰に見られることもないのだけれど。 なんとなく後ろめたくて、俺は教室へと急いだ。 ーーのだが、 「ねぇ」 ふいに後ろから呼び止められる。 「これ落としたよ」 振り向くと、見知らぬ生徒が立っていた。 金に近い茶色の、少し長めの髪で、両耳にピアスをつけている。 顔は整っているが、見た感じチャラい。 そいつの派手な外見に、思わず少し身じろいだ。 「せっかちだね、君は」 チャラい外見に似合わず、優しそうな微笑みを浮かべながら、そいつは俺に何かを差し出した。 「それ、綺麗に撮れてるね」 「……っ!!」 差し出されたものを見た瞬間、俺の思考は止まった。 なぜなら、それは俺が撮った侑の写真だったからだ。 冷静に考えれば、たった1枚見られたところで俺の気持ちがバレるなんてことはないのだが、後ろめたさもあり俺は軽くパニックになってしまった。 ーーそれがいけなかった。 「……あっ!」 パサッ。 動揺したせいで、残りの写真も落としてしまったのだ。 さらに悪いことに、それらは全部表が上になっていた。 「へぇ……」 慌てて拾い上げようとすると、頭上から面白がるような声が降ってきた。 「君、高橋のこと好きなの?」 「っちが……これは、その」 ニヤニヤと尋ねてくるそいつに、慌てて否定しようとしたが、とっさに言い訳が思いつかなかった。 「ふ〜ん、やっぱり好きなんだ」 「っ……言わないで、ください」 「ん〜そうだなぁ、じゃあ君が俺の奴隷になったら黙っててあげる」 「奴隷……?」 「ならないんだったらこのこと高橋にバラすよ?いいの?」 「やめて、それだけは……」 隠れて写真を撮っていたことがバレたら、きっと高橋に嫌われてしまう。 「じゃあ俺の言うこと聞けるよね?」 その恐怖が、俺の思考を鈍らせた。 「……はい」 侑に嫌われるくらいなら、こいつの奴隷としてこき使われるほうがマシだと、この時はそう思っていた。 「やっと捕まえた……」 俺と別れたあと、そいつが不気味な笑みを浮かべているとも知らずに。

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