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第2話

「お、奏多!どこ行ってたんだよ」 教室に戻ると、侑が声をかけてきた。 「ちょっとやることあって部室に」 さっきあったことは、侑には死んでも言えない。 「そっか」 侑の屈託ない笑顔が、今は胸に染みた。 「ところで奏多、お願いがあるんだが」 「なに?」 「昨日の数学の宿題写させてくれ!頼む!」 目の前で手を合わせて頼まれる。 そういえば昨日、宿題を出せなくて怒られていたな、と思いだす。 「いいよ」 本当は自力でやるべきなのだろうが、サッカー部の練習がどんなにハードか知っている俺は二つ返事で了承した。 「マジで!?さすが奏多!」 大げさに喜ぶ侑。 ……バカだな、俺がお前の"お願い"を断れるわけないじゃないか。 「放課後ちょっとしたら返せると思う!」 「あー……いいよ、明日で」 実は、放課後すぐに社会科準備室に来るよう、別れ際あいつに言われたのだ。 そのとき写真もあいつが持って行ってしまったから、行かないという選択肢は俺にはない。 昼休み終了を告げるチャイムがまで侑とくだらない話をして、午後の授業を受けた。 ーー放課後。 俺は、社会科準備室の前にやってきた。 正直、入りたくない。 でも、今さら逃げるわけにもいかない。 俺は覚悟を決めて扉を開けた。 「あ、ちゃんと来てくれたんだ」 そいつは、資料やら地球儀やらが置かれたテーブルの奥で、パイプ椅子に腰掛けていた。 「そんなとこ突っ立ってないで、こっち来なよ」 俺はしぶしぶそいつに近づいた。 「あ、そういえばまだ自己紹介してなかったね。俺、姫宮咲人っていうの。よろしく」 「俺はーー」 「梢奏多くんでしょ?知ってる」 ふふ、と笑ってそいつーー姫宮は言う。 なんで知ってるんだ、と思ったが聞かないでおいた。 「で、俺は何をすればいいんだ」 「ん〜まずはキス、かな」 「は?」 奴隷、と聞いていた俺は、予想外の単語に思わず聞き返してしまった。 「だから、キス。俺にキスして」 姫宮はなんでもないように言う。 「写真のことバラされたくないんだよね?ほら、早く」 侑以外の男にキスするなんて考えられないが、今キスしなければ、こいつは本当に侑に写真のことを話すのだろう。 俺は、覚悟を決めた。 「んっ……」 姫宮の肩に手を置き、固く目をつぶって口付ける。 すると、 「……っ!?」 唇を離そうとした瞬間、姫宮が舌を入れてきた。 「んんっ……ふ、ん」 舌を吸われ、歯列をなぞられ、ぞわぞわとした感覚が背中に走る。 別にキス自体は初めてではない、のだが、 ーーこいつ、うますぎる……! 「ん、……ぅん」 姫宮に侵食されていくようで、俺はその不快感から逃れようともがいた。 しかし、頭の後ろをしっかりホールドされていて動けない。 散々口内を蹂躙されたあと、俺はようやく解放された。 「何すんだよ!」 少し息が切れてしまっているのが情けない。 「奏多ちゃんキス下手くそだね〜」 「誰が奏多ちゃんだ」 ニヤニヤと笑う姫宮を、思い切り睨みつける。 「いいね、その顔」 姫宮が笑みを深くする。 「俺さ〜、奏多ちゃんの色んな顔見たいんだよね〜」 「だから、これからもよろしく」

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